第46話 二つの世界を救う方法
「……俺に、才能なんかないよ。まあ、人に恵まれている、って才能ならあるかもしれないけど、だけどそれは、俺を気にかけてくれるみんなの才能であって、」
「程度の差はあれ、みな、才能はあるんです。トンマくんはすぐ傍にアキバさんという桁違いの才能の持ち主がいて、だからこそ自分にはなんの才能もないと自分自身で蓋をしてしまっているんですよ――そこにあるのに、気づかない。それに、トンマくんの『分身』がしたことを知らないわけがないですよね? モナンさんを救い、ハッピーさんを助けました……、元はトンマくんです。環境の差で、今のトンマくんとは違う道を進んでいますけど、急に才能がぽんと出たわけではないですよ? トンマくんの中にあったものです――分身の方が、引き出すのが上手かっただけで。自信がついたのか、持たないといけない状況に追い込まれたからなのか……分岐の先の分身が、トンマくんのもう一つの姿なのですから、今のトンマくんに『なにもない』わけがないんです」
「…………俺は、アキバみたいにはなれない」
「なってどうするんですか?」
「だって……あれが理想だろ?」
一瞬で答えを導き出す。困っている人を成り行きで救ってしまう。自己保身で足掻いている内に、事態を解決に向かわせてしまう――、そこにアキバの意思があろうとなかろうと、あいつが関わっただけで、周囲を巻き込み全ての障害が取り除かれる……。
あっという間に広く、道が開けるのだ。
一番最初に、リノスと入れ替わったあいつが、異世界で食人鬼の王になっていたのはそういう才能のおかげだろう。
現状をなんとかしようと動いている内に、アキバにとって最も安全な環境が整えられていった……。彼女にしかできない、彼女にしか訪れない幸福だ。
運なのか実力なのか、分からないけど――。
「あれを、天才って言うんだろうな……」
「トンマくんは天才になりたいんですか?」
「……なる、ならないの話じゃないな。生まれ持った才能なんだから」
「じゃあ――持って生まれたかったですか?」
「そりゃ、もちろん。アキバみたいな才能があれば、俺はもっと多くの人を助けられた――、俺たちの世界と、リノスの世界、みんなを救う方法だって、すぐに分かったはずなんだよ……」
「そう思うのは、きっと、トンマくんが天才ではないからですね」
天才ではないことを――褒められたのは、初めてだった。
褒められたのか? と思ったけれど、リノスの表情は、俺を貶めているわけではない。
「今のトンマくんを魅力的に思っている人もいるわけです。今のトンマくんを作ったのはなんですか? 環境です。自分自身は天才ではなく、傍に天才がいて、そんな憧れに追いつこうと必死になって生きてきたトンマくんだからこそ、今、傍にいる人たちと出会えたんじゃないですか?」
委員長――モナンやハッピー……そしてリノス。
ターミナル、ルルウォン、テトラ、ハチミツ姫や、他のみんなも。
今の俺だからこそ、傍にいてくれた人であり、出会うことができた人たちだ。
もしも俺に才能があれば、出会っていなかったかもしれない……。
もちろん、才能の有無だけの差で、今と同じ状況にいるのかもしれなかったが……、きっと、俺のスタンスは変わっていただろう。
才能を持っていた俺は天才に追いつこうとしなかったはずだ。俺が天才だったら、アキバという天才に執着することもなく――もしかしたら、今、傍にいる人たちの中で唯一、いなかったかもしれないのが、アキバだ。
同じキャラはいらない、と言うように。
俺の世界からいなくなっていた可能性だってある――。
みんな違うからこそ、集まっている。
なんでもできる天才にだって、当人にしか分からない苦悩と、喉から手が出るほどに欲しいものがあるのだ。天才は完璧ではない、人より才能が、あるだけで……。
「トンマくんは天才ではないですけど、多くの人を救っていると思います……。自覚はないと思いますけど」
「ああ、俺は知らないよ。この手で救った手応えがあった人なんて、一人も――」
アキバの後ろにくっついていただけだから。
「だからこそ、アキバさんは多くの人を助けられたのかもしれませんね」
「え?」
「トンマくんが傍にいたから、力を発揮できたのかもしれません。トンマくんの行動があったからこそ、アキバさんがなんとかできる土壌が出来上がったのかもしれません。トンマくんの存在は、いなくてもアキバさんの救済が成立するような、弱い存在ではないはずです――それは、わたしが保証します。この目で見て、そう判断しましたから」
姫の目で。
人選の目には自信があるらしい。
それがリノスの才能なのかもしれない。
「だから自信を持ってください――いいえ、持ちなさい、トンマ。あなたは天才のように、一瞬で答えを導き出すことも、足掻いているだけで現状が自然と改善していくような影響力もないですが、しかし、知恵と工夫と手数で、同じ結果を残すことができます――時間がかかるだけで、天才と同じ結果を出すことは可能なのですよ。あなたがアキバさんに劣っていると答える者はいないでしょう……、尖っている才能が違うのです。彼女との関係性は、上下ではなく左右なのです。あなたは充分に、アキバさんの隣にいるべき才能を持っています――だからッ!!」
指ではない、拳で、今度は強く魂を叩かれた。
「もう一度言いますよ……――自信を持て、東雲真!!」
すると、握り締めていたスイッチャーが光り輝いた。
目を細めるほどの眩しい赤い光が周囲を染め、スイッチャーの効果が、リノスに伸びた。
「……自信、持てましたか?」
微笑んだリノスの魂が、入れ替わる。
数秒後、光が萎み、いつもの風景に目が慣れてきたと同時、目の前のアキバのまぶたが持ち上がる……――魂が、戻ったのだ。
アキバの魂が、そこにいる。
アキバの体にアキバの魂があれば、もうアキバ本人だ。
彼女は俺を見つけ、「あっ、トンマっ!」と身を乗り出したが、腹部の怪我が響き、自分の力では体を支えられずにベッドに倒れる。
「おいっ、アキバ!? 今はゆっくりでいいから……ひとまず安静に、だ」
急に動き、傷口が開いてしまったのか……。
嫌な汗をかくアキバの体を支え、ベッドに寝かせる。
苦悶の表情のアキバは、時間が経ったことで痛みに慣れたのか、痛みが引いたのか、さっきよりは楽な表情になっていた。
「あー……、痛かった」
「ナイフで刺された怪我をそんな軽い感想で終わらせるか? まあ、刺された瞬間を味わったわけじゃないから、その時の痛みよりは和らいでいるか」
「刺されたの? 私が? なんで?」
とりあえず事情を説明する。
分からないことも多いけどな。
そう言えば、入れ替わったドットと、アキバは対面しているんだよな……?
向こうのアキバは、リノスの見た目になってしまうけど。
俺と入れ替わってしまう以上、対面はできないが、アキバから聞くことで、ドットがどういう人となりなのか分かりそうだ……――が、今はそれよりも。
「アキバ、聞きたいことがあるんだけど」
「うん」
「さっき説明した通りだ。このままだと、俺たちの世界が異世界の住人たちに乗っ取られちまう。それを阻止したいんだが、異世界の住人であるドットたちを追い返すのは、できればしたくない。片方の世界の住人が犠牲になるのはダメだ――。そして、手元に入れ替わりの『スイッチャー』がある。で、俺の分身が、『分身を作り出す』トレジャーアイテムの『レコード』を持ってる……、この状況で、二つの世界の住人を救う方法が、あるか?」
結局、アキバに頼っている。
それが悪いこととは思っていないけど……、もちろん、俺だって働くつもりだ。
アキバに発想の丸投げはするが、実行は俺が動く。
俺だけじゃ足りなければみんなにも声をかけて――そこは信頼を作るしかない。どんな手を使ってでも――。俺の体でみんなの手助けになるなら、いくらでもやろう。それがアキバの発想の手助けになる、実行の手となるのなら。
「ふんふん……その、レコードは……何人まで作れるの?」
「いや……分からないけど、少なくとも二人は大丈夫だ」
「分身は……、時間が経てば消滅する?」
「今のところ、俺の分身は消えてないから……でも、一生は難しいよな……? 悪い、そこまではまだ分からない」
「そっか……じゃあ、とりあえず、『一生消えない分身』が一人でも作れることを仮定とすれば、二つの世界を救う方法は――あると言えるよ」
「え、ほんとに? こんなにあっさりと!?」
「分身が一生、存在できるならの話だけどね」
恐らく、アキバが一瞬で導き出した方法は、俺の分身が考えていた方法と同じだろう――二つのトレジャーアイテムを使えば、二つの世界の住人を救える……。
絶対にして、唯一の方法。
「こっちの世界にいる人の、一人一人の分身を作ってから、その分身に『入れ替わり』を使えば、こっちの魂と異世界の魂が、こっちの世界にいられるよね?」
――作った分身の魂は向こうにいっちゃうけど。
欠点を言えば、抵抗があるのはそこだけだった。
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