第42話 作戦本部の城塞

「おかえり、王さま」

「ただいま」


 小さな女の子が近づいてくる。……しかし、中身はどうだろう? 魂の器が『小さい女の子』になっているが、中身は違うかもしれない……。

 会話がスムーズなので、見た目よりは年上か?

 俺より上ってことはないとは思うけど……。


 これがランダムだとしたら、ワイングラスを揺らす赤ん坊がいてもおかしくないのか……。

 見た目で判断してはいけない――普段よりももっと意識しなければ。


「どうかした?」


 夢の国の路上に、ビニールシートを敷いて多くの人たちが集まり、談笑している。

 雨が降れば、シートを広げて屋根を作り、たくさんの小さなテントで寝泊まりしている――なんて姿も想像できる。

 近くのホテルや施設の中もびっしりと人が集まっているのだろう……。

 そこから漏れた人たちが、路上で生活させられている。


 その選考基準は、やはり権力者が優先的にホテルや施設を利用でき、力を持たない者が外へ追いやられている……、ビニールシートやテントがあるのでマシに見えるが、それでも路上で生活させるのは可哀そうだろう。


 やっぱり、こんな生活をさせるくらいなら都内のビルにでも詰め込んでおけばいい――ビルならいくらでもあるのだから。

 野晒しよりはマシだ。

 そんな中で、ビニールシートから立ち上がって近づいてきた女の子が言った。


 ――また帰ってきた、と。


「…………また?」

「さっきも帰ってきてたよ、王さま」

「それ、どういうことかしら」


 先に反応したのはテトラだった。

 無自覚に、上から威圧してしまっているようで、女の子の顔が怯えて固まっている。


「テトラ、顔」

「…………怖い、かしら」


 女の子が頷き、やっと自覚したテトラが、ふう、と息を吐いてから――優しく微笑んだ。


「どういうこと、なのかしら」


 それでも怖いけど……俺だけか?


「えっと……、さっきも王さまが帰ってきて、同じように手を振って、お城の方に向かっていったけど――いつの間に出かけてたのかなって、不思議に思ったの」


「……その時の王様の隣に、誰かいたかしら……、ターミナルとか」

「王さま一人だったよ」

「勘違いじゃなくて? 本当にこの顔だったの?」


 テトラが俺の顎を掴んで、ぐいっと引っ張った……――おいっ、王様の顔だぞ!?

 ドットが相手なら、こんなことはしないはずだ……俺だから、である。

 王様の役だからって、テトラが優しくしてくれるわけではないってことか……。


「うん、王さまの顔だった」

「…………」

「テトラ?」


 考え込むテトラだが、答えが出ることはないだろう……、今の時点で疑問に思うくらいなら、テトラはまだ見ていないのだ。


「ねえ、あんたは……双子はいる?」

「いない。俺は一人っ子だからな」

「そう……、嘘は、ついていないみたいね……」


 チッ、と舌打ちされた。双子がいれば話は簡単だったのに、とでも考えているのだろう……まあ、いたとしても、思った通りの犯人だとも限らないが。

 テトラには絶対に分からない答えである。


 ちなみに、俺には心当たりがあった――。

 少なくとも、二人いる。


「――城に戻るわ」

「城って、シ〇デ〇ラ城のことか?」

「知らないわよ。とにかく見えているあの城にいくから――あそこが作戦本部なの」


「ふーん」

「――戻るって言ってんのよ、いいから走れ!!」


 実際にケツを蹴られて足が勝手に動く……、王様が受ける仕打ちじゃないだろ!!


「いつも通り、仲良しな二人だねっ」と、女の子。


 嘘だろ!? ドット相手でもこんな感じなの!?

 しかも女の子には、このやり取りが仲良しに見えているらしい……。一歩間違えればいじめだ。いや、俺が訴えればいじめにできる……、それくらいのことをテトラはしているのだから。


「テトラっ、そう急がなくても――」

「なに言ってんの!? ニセモノに、みんなが騙されたら――怪我でもさせられたら――ドットに顔向けできないじゃない!!」


 彼女の潤んだ瞳を見て、冷静に見えてもテトラの中では必死なのだと分かった。

 俺は、ニセモノの正体に心当たりがあるが、テトラは知らないのだ……だから、ドットを装って近づき、仲間に危害を加えようとしている謎の正体としか想像ができず、だからこそ不安で仕方がないのだろう……――すぐにでも確認したいくらいには。


「――分かった、急ごう」

「最初からやりなさいよ、バカ!!」


 ケツを蹴られたわけではないけれど、その言葉が一番痛かった……。

 ごめん。

 だからそれ以上、泣くなよ、テトラ。

 お前を泣かせたら、俺だってドットに合わせる顔がないんだからな――。



 息を切らしながら走り、シ〇デ〇ラ城へ到着する。

 城の中にいたのは、いつものメンバーと……『俺』である。

 やっぱり、お前だったか……。


 ドットではなく『東雲真』であり――俺が知る限りでは二人いる、俺の分身だ。

 この場に俺が二人いることで生まれた、僅かな静寂――。

 その中で、目が合った……もう一人の俺と。


「……へえ、思ったよりも早かったな」

「え、ドットが……二人!?」

「どういうことだ……っ、マスター!!」


 周りの動揺が見て分かる。そして意外だったのが、向こうの俺は、俺のフリをしていても、それを続ける気はないというところだった。

 俺が本物だ! と言い合いになると思ったが、向こうはニセモノであると行動で認めている。

 俺たちから距離を取り――逃げようとしている!


「待て!」


「待てと言われて止まるなら、最初から動いたりしないだろ?」

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