第40話 行き先は夢の国

 一か所に集める、という名目なら管理がしやすいが……とは言え、食人鬼の分も増えるとしたら、大型にしろ、クルーズ船では狭いだろう。

 ……何隻も用意できるとは言え……、船の上よりも地上の方が生活しやすいはずだ。


 勝手な行動をさせないようにするなら、敷地外を海にするのは、良い案ではあるけどな。

 これで勝手な脱出はできなくなる……、入れ替えた魂の把握がしやすいし。

 勝手な行動はテトラがしているが……彼女は特例である。


「その案もあったけど、食人鬼がいないなら地上にいたいと望む声が多かったわ。まあ、中には船の上に慣れた人もいたみたいで、船の上派もいたみたいだけど……、だから広大な敷地と、目が慣れないように様々な景色が楽しめて、施設も充実している……そして同時に大きな船もあって、敷地の中と外で区切りが分かりやすい場所に人を集めているの――あれは小さな国よね。国の中に国があるのも珍しいんじゃない?」


 テトラが言う、条件に当てはまる場所なんて、あっただろうか……。

 国……、国の中に、国がある?

 日本の中にもう一つの国があったっけ?


 正式な国でなければ、そこは――――そういうコンセプトであれば。

 夢の国。

 〇ィ〇ニー・ランド――?



 車移動で夢の国へ。

 道中、外を見てみたが、やはり人はいない。もしかして日本国内にいる人は既に全員を入れ替えているのか……? そして夢の国へ収監――おっと間違えた、保護していると。


 ……入る? いくら広いとは言っても全国民を一か所に集め、快適に過ごせるとは思えない。

 自由に行動されてもいいから、夢の国よりも都内で管理した方がよっぽどいい気もする……。


 トイレなんて長蛇の列なのでは? 近くのホテルだって、人数制限があるし、美味しい思いをする者がいれば、辛酸をなめる者だっているわけで――悪夢の国にならなければいいけど。


「そう言えば、海外はどうなってる?」


 運転はハチミツ姫の側近の少女だ。

 助手席にはハチミツ姫、後部座席には俺とテトラで――ごく普通の一般車だった。


 ハチミツ姫でなくとも外側は蜂堂光子なのだから、良い車に乗ってそうだ(お父さんが)と思ったが、あまりこういうところにはお金をかけないのかもしれない。時計や服などで莫大な資金を誇示せず、経営にお金を突っ込んでいるタイプなのかもしれないな……機能性重視?


 それで言うと、この車は機能が良いわけでもなさそうだけど。


「ドットの『人類入れ替え作業』は、まだ海外までは及んでいませんよ。今のところ、国内で留めています……大変ですからねえ、入れ替えるのだって楽じゃないですから」


 不意打ちで入れ替えることができると言っても、魔力は有限だ――ゆえに、一日に入れ替えられる人数の上限も決まっている。

 それも、休息をこまめに取ることで上限を少しずつ増加させているらしいけど……小さなものだが、それでも積み重ねていけば大きな差になる。


「日本がこんなことになっていて、海外が黙ってなさそうな気がするけど……」


 特にアメリカなど。

 日々、連絡は取っているはずだから……急にそれが途絶えたとなれば、他国が訝しんでもおかしくはない。


「その海外も、タイミング良く混乱しているらしいわよ」


 と、テトラ。


「混乱……? でも、入れ替わりはしてないんだよな……?」


「そ。だから勝手に国同士で争ってるんでしょ。それとも内輪揉め? とにかく、今世界は『テロ』で大騒ぎみたいね。日本なんかに人員を割いている余裕もないわけよ」


 テロ……?

 連想したのはテトラの爆弾だが……、今の彼女は委員長なので、爆弾を持っているわけがない。国内にいて、テロに使えるような爆弾を手に入れることもできないだろうし……、だから本当に、タイミング良く(当事者からすれば良いとは言えないけど)、テロが起きたのだろう。


 おかげで日本の異常事態が注目されることはなかった――。

 もしも注目されていたら、どうなっていたのだろう。

 ドットが、海外にまで入れ替えの手を伸ばせば――異世界の魂は底をつくのではないか。


 それが目的なのだろうけど……、入れ替える魂がない場合、効果は発動するのか? 不発で終わるのなら、分かりやすい打ち止めの合図だが、それでも続く場合、また別の異世界の魂を持ってきてしまったと推測する必要も出てくる……。


 今のところ二つの世界でのやり取りで止まっているが、これが増えていくとなると、かなり面倒なことになる……。

 どこに誰の魂がある? なんて、複雑に絡まった糸を一つ一つ解いていくのは、かなりの時間がかかるだろう。


「(……もちろん、総入れ替えには、俺も反対なんだよ……、リノスと一緒でさ。結局、俺たちが向こうの世界で食人鬼に怯える生活を強いられるだけになる。じゃあ元に戻せと言えば、ドットたちを、同じ目に遭わせることになる……。その通り、元に戻っただけ、と言えば、あとはドットたちの問題だけど、知ってしまえば放っておけないだろ。ドットはともかく、ターミナル、ルルウォン、それにテトラにも……、世話になったわけだしな)」


 テトラには拷問されただけだが、だからこそ顔見知りではある。

 友達でなくとも知り合いであれば、見捨てるのも気持ちが悪い。


 積極的に助けようと思うほど、俺もお人好しではないけれど、まあ、ターミナルとルルウォンのついでならば、わざわざテトラだけ、手を引っ込める必要もないわけだ。


 二人のついでに、テトラも助ける。無事に解決できれば、だけどな。

 前途は多難だ。


「姫様、見えました――夢の国です」

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