第36話 魔力の仕組み

「起動は、魔力によるものですけど……、そもそもトンマくんは、魔力をなんだと思っていますか?」

「?」


「……魔力とは、わたしたちの世界での言い方です。体の内側から溢れ出てくる、腕力や脚力とは別の、オーラとかやる気とか、そういうものに近いものを、魔力と名付けた説もあって……。諸説ありますけど、体の内側から溢れ出るそれを自由自在に操る技術が、進化の過程で身に付き、人間にとって当たり前になった……――それを魔力と名付けた、と言えば、わたしたちが知る魔力は、きっとトンマくんたちにも備わっているはずです――」


 使い方が分かっていないだけで。

 コツを掴んでいる魂が、こっちの世界の肉体に入れば、魔力と同等の効果を持つ『体の底に眠っているそれ』を、引っ張り上げることができるのではないか?


「……今の俺でも、トレジャーアイテムを起動することが、できるのか……?」

「できると、思います……理論上は。コツを掴んでいないなら、難しいかもしれないですけど……。だからトンマくんの体に入ったドットは、魔力を使えていた――ドットが上手なのか、トンマくんの素質なのかは分からないですが、人類総入れ替えが現実的に思えるくらいに、膨大な魔力が眠っていたから……」


 俺に?

 アキバではなく?

 素質がある、とか言われたら、すぐに連想してしまうよな、アキバを。


「……使い手の問題、の気もするけど……」

「ん?」


「いえ……――ドットは、人類総入れ替えを実行しようとしていて、わたしはそれに反対だったんです……、だから、嫌われたんだと思う……。実際、わたしはドットを利用して、トンマくんをこっちに戻したわけですし……、『スイッチャー』もここにあります」


 う、と耳元から聞こえる苦痛の声に、無理するな、と言いかけたが、リノスがスイッチャーを俺の目の前に出す方が早かった。


「……トンマくんが、預かっててください」

「…………」


「押し付けるわけじゃないですよ? わたしが持ってても、すぐに奪われちゃうと思いますから……」

「それは俺も同じ気がするけど……」

「ううん、わたしよりはマシですよ」


 そうか? まあ、怪我をしているリノスよりは、俺が持っていた方がいいのか……。

 立方体のそれを受け取り、ポケットにしまう。

 これが全ての元凶だ。


「分かった、けど……これからどうすればいいんだ?」


 人っ子一人いない。

 学校だけでなく、この気配のなさは、町にも言えるだろう。

 もしかしたら国を見渡しても、誰もいない可能性もある。


 みんなはどこにいる?

 ドットがいるなら、近くにターミナルやルルウォン、そしてテトラもいるはずだろう……。

 どこかで見ているならすぐに駆け付けるはずなのに、誰もやってこないということは、まだ知らないのか……?

 俺とドットが、入れ替わっているということを。


「…………」


 これは、もしかして…………、またドットのフリをして、説得しやすいターミナルに接触しないといけないのか……?

 すぐに見破られる気がするけど……、いや、まずはターミナルをハッピーと入れ替えるのがいいか……。一人だから不安、という理由もあるが、武闘派であるハッピーがいてくれた方が心強い。


 その分、ターミナルが向こうの世界にいってしまうが、ドットとターミナルが揃っただけでは、なにもできないだろう……。

 総入れ替えの途中なら、向こうにいる食人鬼はこの世界の魂だ。ドットとターミナルが食べられることはないだろうから――入れ替えることに抵抗はない。


 俺に、ターミナルを入れ替えられるのかって話だが。

 魔力の使い方も覚えないといけないし……。


「そもそも、この問題を根本的に解決することができるのか……?」


 その場しのぎは意味がない。

 どれだけ入れ替えても、別の方法でアプローチをされたら……イタチごっこになる気もするな……。

 食人鬼の飢餓をどうにかしない限り、どちらの世界も救うことはできない。

 この問題の答えは、どこにある?


「なあ、リノス――」


 ずし、と背中が重くなったと思えば、リノスが全体重を預けたのだ。

 意識が落ちた。痛みに堪えていた緊張感が途切れ、そのまま――。


 微かに息があるのが伝わっているので、ほっと安心したが、時間の問題だろう。

 異世界の住人で、痛みに慣れているとは言え、ナイフで腹を刺されれば、出血の問題でいずれ命の危険に入ってしまう。


 今も危ないだろう。医学に精通しているわけではないのだから、楽観的ではいられない……早いところ、リノスの手当てをしなければ。


「近くの、大きな病院に――」


 町一番の大きな病院へ向かうことにした。

 そこは、ある大金持ちが経営している病院である。


 もしかしたら……、ただ、さすがに本人(でなくとも向こうの魂)がいるかどうかは分からないけど、向かってみる価値はある……。

 どうせ手当てのために病院へいく必要はあるのだから――。


 その病院は、『蜂堂はちどうグループ』――だったはず。

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