第37話 蜂堂とハチミツ姫
隣のクラスの
と言っても、俺と同じ学校に通っているのだから、比較すれば、というだけで、本物のお嬢様の中に混ざれば全然一般人なのだろう。
お嬢様から見ればかけ離れているけれど、俺たちのような一般人からすれば、彼女のことはジャンルで分ければお嬢様なのだ。
海外の血が混ざった、ハーフの女の子。
リノスと被るけど、地毛が金髪である。
委員長は面識があるようだが、俺にはない。遠目で見たことはあるから、名前と顔は知っているけど、あっちは俺のことなんて知らないだろう……喋ったことすらない。
すれ違ったことはあるだろうけどな。
だから飛び込みで訪ねたところで、知り合いだから、と優遇されるわけもない。
病院となると、身内びいきはさすがにされないだろう……、優先されるのは命に関わる病気を抱えた緊急性が高い患者だけだ。
それで言えば、今のリノスの怪我は優先されるべきではあるのだけど……ただ、学校から出てみて気づいたが、本当に人がいない。表通りどころか裏通りも。
じゃあ、みんなは家の中にいるのかと思って庭を覗いても、音がない。テレビを持たない家庭が増えていると言っても、高齢者が住んでいるような一軒家は、さすがにテレビくらいあるだろうし……。だけど、それでも音がない。
電源を消しているだけではなく、そもそも家主がいないのだ。
どこにいった? 学校の生徒全員をどこかへ避難させたなら分かるけど、町全体、住んでいる人と仕事をしている人の全員を移動させて集めるというのは難しいだろう。
数人くらい、勝手に出歩いていそうな気もする。
別に地震や津波で町が破壊されたわけでもないのだから……災害時にお店から商品を盗む人だっていそうだが……。
統率が取れている、のか……? 言うことを聞いて、一か所に留まっているならいいけど、既に肉体ごとこの世にはいないってのはやめてくれよ?
統率、か……現代では不可能に近い。
だけどそれをやってのけたとしたら、やはり…………入れ替わりのおかげか。
異世界人は王を主体としているから、王が声を上げれば、みなが従うのかもしれない。
まあ、急に入れ替わって戸惑っている中で、事態を把握している人物が先導すれば、従いやすくはあるのか……。
異世界よりもこっちの世界は安全なのだから。
一人一人が強かだし、メンタルも頑丈なはず……。
入れ替わった先で心配なのは俺たちの世界の住人だ。
スマホもないあっちの世界で、なにをしたらいいか分からなくて、路頭に迷っていなければいいけどな。
――蜂堂グループの病院はいくつかあって、できれば一番大きな病院へいくべきだったけれど、ひとまず設備が整っているだろう地元の病院へ向かった。
『
俺もアキバも委員長も、何度もきたことがある。
流行りの風邪の時は、ここでばったりと出会うことも多かった。
待合室に置いてある漫画を三人で読んだのだ……、いつまでも品揃えが変わらないから、同じ漫画を読み続けることになって……。
なぜか六巻だけ置いてあって、その一冊だけ、隅々まで覚えてしまっているのだ。未だに五巻も七巻も読んだことがない……。昔の漫画だから急いで読むこともなく、気づけば忘れていた……――そんな思い出が詰まった病院も、やっぱり静かで誰もいなかった。
電気は点いているけど、なによりも音がない。
BGMはなく、本物の環境音もなく――病院がここまで静かなのは初めてだ。
普段ならなにかしら動いているだろうし……その音もなかったのだから、静かさが際立つ。
すると、自販機の稼働音がやっと聞こえてきて……ほっとする。
安心する音だった。
「手当て、と言ってもな……包帯を巻くことくらいしかできねえし……」
それなら薬局に寄って包帯を買っておけば……ただ、店員さんがいないので、持ち出すことになってしまうが、その場合はお金だけを置いておけばいいのか……、不足分は仕方ないとして。
せっかく病院にきたのに、知識がなければ薬局にいった場合と変わらない……、無知だと豊富な設備も宝の持ち腐れだ。
怪我の度合いを考えると、素人が見様見真似で手を出すべきではないし……、専門の本でもあるのでは? ネットが繋がっていれば、受付にあったパソコンで動画検索をして、処置のマニュアルを確認することもできるだろう……。
だから俺がいくべきだったのは病院でも薬局でもなく、本屋、もしくは図書館だったのかもしれない。
まず知識がなければ、道具の使い方も分からない。人も救えない――。
とにかくだ、背負ったままだったリノスを安静にさせる。
待合室の長い椅子にリノスを横にさせて……、そこで気づいたが、服がびしょびしょだ。
リノスの多量の血のせいだろう。
この出血の量は……まずいかもしれない。
知識がない俺でも分かるくらいには、多量だった。
「ごめん、リノス、もう少しだけ待ってて――」
「連絡の一つもなく、こそこそとなにをしているのでして? ドット?」
と――、入口から顔を出したのは、金髪の――大胆に額を見せたツインテールだった。
……蜂堂光子。そして異世界のハチミツ姫と瓜二つである。
まるで姉妹のように見え……、比べてみれば、蜂堂の方が少し幼く見える、か……。
髪の色が銀と金で違いはあれど、それ以外はまったくと言っていいだろう……同じなのだ。
ここまで外見が似ることがあるのか? 当然、入れ替わっているなら、今の蜂堂の中身は、ハチミツ姫だろう――それを期待していた、というのもあるし。
ここでまったく別人だったとしたら、俺としては困る状況ではあった。
「ハチミツ姫……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます