第33話 王の登場
霧の先。
食人鬼を警戒しながら進むと、見えてきたのは開いたままの門だった。
食人鬼の国と言っている以上、人間はいないのだ……いればすぐに食べられてしまうだろうから、とっくのとうに姿を消しているはず……。
当然、門番もいないので、入ろうと思えばすぐに入ることができる。しかし如何せん、霧が濃い……、この場所は元々こうなのか? 意図的に発生させようと思ってもできるようなことじゃ……、いや、トレジャーアイテムなら、可能だ。
アキバの仕業か? 食人鬼から隠れるために……。でも、目でなくとも匂いと音でばれそうな気もするが、あいつの意図していないタイミングで、狙ってもいない効果のおかげで、食人鬼の襲撃から逃げられているのだとすれば、あり得ない可能性でもなかった。
さて、あいつはどこでなにをしているのやら……。
不思議と、今も無事でどこかにいるのだろう、という安心感がある。どこかで一人で震えて、怯えているかもしれない、と思わせてくれないところがあいつの凄いところでもある。
どんな環境下でも、放り出してしまえばなんとかしてしまう――自分の身は自分以外が守ってくれる、というのを自覚なくしているのが、アキバという天才なのだ。
「そろそろ、地に足をつけたい気分かなー、なんて」
未だに担がれている委員長の懇願は、あっさりとスルーされた。
ハッピーは人差し指を立て、静かに、と似合わないポーズだ。
「(濃い霧は食人鬼には意味がない、とも思ったが、まったくないわけじゃないらしいな。匂いと音で反応している面もあるだろうけど、やっぱり目も使ってるんだ。灰を被って覆われていても、暗闇ってわけじゃない。薄くても見えている……。目、鼻、耳でアタシたちを探しているんだ、その内の目を潰せば当然、アタシたちも見つかりにくくなる)」
気配に敏感そうに見えて、探知能力は俺たちに毛が生えた程度、なのかもしれない。
確かに、情報ゼロで俺たちを見つけられるわけではないのだから――勘に頼らない分、俺たちよりも劣っているかもしれない。
勘に頼り、賭けに出るくらいなら行動しない。エネルギーを節約するのが、食人鬼である。
追う側からすればそうだろう……、俺たちは逃げる側だ……となれば、勘でもいいから食人鬼がいない方角を決めて行動するしかないわけだ。
オートかマニュアルか、みたいな差があるのだろう。
「(入るぞ。いるんだろ? ここに――トンマがご執心の、『アキバ』が)」
「(情報によれば、だけどな。せっかくきたけどいないって可能性もある……食人鬼の入れ替わりが発覚し、俺たち(異世界の魂)も襲われた前例があるなら、アキバも行動を起こしているはずなんだよ……。既に国から出ているってこともあり得るからな……)」
無駄足かもしれない。しかも敵陣地のど真ん中まできての無駄足は、かなりショックだが……手がかりがないわけじゃない。
せめて、アキバがいなくとも手がかりくらいは見つけたいところだ。
そのためには、門をくぐることが必要だった。
「……いくか」
門を通ってすぐ、脇に見えた人影に心臓が止まるかと思った。
そこにいたのは灰被りの食人鬼だったが、俺を見て襲ってこないということは、まだこっちの世界の魂のようだ……。
意思疎通はできない……、俺たちの言葉が分かるわけでもなければ、俺も、相手の意見が分かるわけではないのだから。ただ襲われない……それだけだ。
「せめて、見分けがつけばいいけど……難しいよな」
ドットの姿で中身が俺であるということを、周りの人たちが気づいていないように。
魂の違いは外からでは分からない。
だから。
もしも知恵をつけた食人鬼がいれば――魂の違いを誤認させた上で背後から襲われたら、回避できない。
灰色の手が。
俺に伸びていた、らしいのだ。
――彼女が言うには。
俺はあと少しで、死んでいた……。
「はい、1アウト。相変わらず詰めが甘いね、トンマ?」
容赦なく。
食人鬼の頭部へ、鈍器が振り下ろされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます