第30話 水面下の計画
水城さんは俯いた。表情が読めないので分かりづらいが、記憶を辿っているのだろう……、魂の入れ替わり。俺が知る限り、それはトレジャーアイテムによる効果なのだ……。
自然発生し、魂が入れ替わることはない。
だったら、誰かがアイテムを使って魂の入れ替えをおこなっていることになるけど…………。
「先輩、あたしと葉ぁ先輩の時、事情聴取みたいなこと、されていない気がしますけど……」
「私の時もそうだったかも」
と、委員長まで。不満そうでないだけまだマシだったけど、モナンは不満たらたらだった。
お前たちの場合は、なんとなく予想がつくんだよ。俺の分身と関わっていたし、だからトレジャーアイテムとも距離が近いから……。委員長なんて、リノスと最も親交が深いしな。
だけど水城さんは違う。俺の知り合いではないし、委員長やハッピーもなにも言わなかった。
だからモナンも言わずもがな。水城さんが俺たちを知っているわけでもない……無関係なのだ。
本来、入れ替わる人ではない。
だから……巻き込まれたのだろうけど、どうして彼女が巻き込まれたのか、その手がかりがあれば……。
「いいだろ、どうせなんとかするんだから。『入れ替わる前はなにしてた』なんて、聞く必要がなかったと言うか……。理由なんてなんでも良かったんだ。水城さんに聞いたのは、あまりにも俺たちとは無関係過ぎたから、事故なのか悪意なのか、予想をする上で必要だと思ってだな……」
「だとしても、あたしたちにも聞くべきですよ……後からきた人に特別扱いは、面白くないです」
「分かったよ、あとで聞いてやる。時間があった時に気が向いたらな」
「それっ、絶対に聞かない人の言い方じゃないですかぁ!!」
モナンは目の前の座席をぽこぽこ叩いた。
そうやって発散するのはいいが、前の席はハッピーだぞ?
「おぃ……、叩き落とすぞ?」
「ち、違いますっ、先輩がやりました!」
いやいや、そんな言い訳でハッピーが騙されるわけ――ぶっ!?
即断即決で、ハッピーの拳骨が俺に落ちた……なんで!?
「なんで俺なんだよ!!」
「後輩をきちんと躾けないからだ。モナンを殴るわけにはいかないだろ、さすがに……だからおまえだ」
「いや、俺を殴るわけにもいかないって判断にはならないのか!?」
「おまえはアタシに忠誠を誓ったんだろ? ま、おまえの分身? なんだけどさ――分身なら連帯責任だ。おまえはアタシのもんなんだよ」
奇しくも、ターミナルとドットの関係性とは真逆だ。
俺は了承した覚えはないけどな!
「ちなみに先輩はあたしの騎士です……、あたしをお姫様扱いしてくれると言ったのは先輩ですよ? しかも先輩の方からっ!」
厄介な立ち回りを押し付けられている……。当事者からすればそう決意する『想い』があったのだろうが、当事者でない俺からすれば面倒でしかない。
思い入れがなにもないのに、忠誠を誓え? お姫様扱いをしろ? 当然、気持ちがこもらないだろう……。それでもいいのか、お前たちは。
『いいぞ(はいです)』
「……実は誰でもいいんじゃないか……?」
俺でなくとも、分身でなくとも。
忠誠を誓って、お姫様扱いをしてくれるなら――。
「誰でもいい? おいおい、言葉にしなきゃ分からないのか?」
「先輩ですけど、お説教をしないと治りませんか?」
と、前から横から責められ、俺は自然と謝っていた。
……確かに、今のは俺もデリカシーがなかったな。
「トンマくん」
委員長が優しく声をかけてくれた。
やっぱり、俺を慰めてくれるのは委員長だけ――
「トンマくんのばーか」
「…………」
一番凹んだ。
ショックで俺が俯いた時、隣の水城さんが顔を上げ、ぽつりと呟いた。
「……高校生の子たちが、いた……気がする、かも……しれない?」
記憶が曖昧なのは仕方がない。過去の記憶との差がそうなくても、衝撃的なことがあれば思い出せないことはある。昨日の晩御飯はなに食べた? が、すんなりと出てくるとも限らないわけだ。
……高校生。範囲が広いな……。
でも、高校生が、水城さんを異世界へ飛ばしたと考えれば……? 絞られてくるな。というか、俺が知る限りは彼らしかいない。
動機はともかく、トレジャーアイテムを持っていながら、行動を起こすとすれば、ドット――。
俺と入れ替わった魂しかいない。
「水城さん、その高校生は一人でしたか、二人でしたか?」
「ふ、二人……かな? 金髪の、不良みたいな女の子と一緒だった……」
「葉原さんですね。じゃあ、入れ替わった――」
「入れ替わったターミナルとドットが、トレジャーアイテムを使って水城さんをこっちへ飛ばした……。この食人鬼の中身と入れ替えたのだろうけど……」
しかし、入れ替わりはランダムのはず。少なくとも、使用者に決められるわけではないような気がするが……。それに前提として、元の世界でトレジャーアイテムを使うことはできないはずだ。
起動には魔力が必要である。でも、元の世界の俺たちには魔力がないから……。
入れ替わった魂が、魔力を持っていっているわけではない……、付着した少量なら使える、というのはリノスの前例があるが、それも使ってしまえばもう生成はできないはずなのだ。
魂に付着した貴重な少しの魔力を、水城さんに使う理由は、なんだ……?
ドットには、魔力がないも同然なのに。
しかし実際、水城さんはこうしてこっちの世界にきているわけだから…………なにか方法があったのは事実だ。
俺たちの知らない仕組みがあったのだとすれば。
「向こうの世界でも、魔力に代わるなにかがあって――」
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