第28話 再出発

 ターミナルが持っていた地図を全員で確認する。

 現在地が、たぶんここだ……、安全地帯を抜けた先、廃墟となった国――。

 俺たちが目指すべき食人鬼の国は、北にある。


 襲ってこない食人鬼たちが周りでうろうろとしている中で、俺たちは完全に気を抜いている。

 確かに襲ってこない確証があるとは言え、それでも警戒しておくべきではないか?

 地図とにらめっこをしている三人のためにも、周囲の警戒は俺がするべきか……。別に、地図が読めないわけじゃない。スマホに頼っていたので、紙の地図に慣れていないだけだ。

 それはモナンもハッピーも同じだったようで……。


 委員長だけだ、地図を広げてルートを目で追っているのは。

 でも、その地図通りの地形のまま残っているかは不明だ。

 ターミナルは言っていた……、臨機応変に遠回りをする必要もある……と。

 大まかな方向だけ分かっていれば、具体的な道順は覚えなくてもいいのではないか。

 もう、食人鬼に怯えることもないわけだしな。


「この地図は高低差までちゃんと書いてあるから……――トンマくんだって嫌でしょ? 山を越えるよりも、平地を楽に進みたいと思うでしょ?」


 進んだ距離は同じでも、上へ登っていれば、当然、体力を使う。

 大まかな方角だけで進んでいれば、無駄な体力を使う可能性があるのか……。

 平地。でも、過酷な平地は嫌だけど……地図を見ただけじゃ分からないか。

 それこそ、臨機応変に、だ。


「トンマくん、車を使ったらいいんじゃないかな?」


 車と言えば……ターミナルの愛車だ。

 でも、車で進めないから置いていったはずなんじゃ……?

 オフロードを走れる車だったけど……確かに、使えたら楽に先へ進めると思う。


「ターミナルちゃんは、食人鬼にばれないように置いていったと思うの。この先の道が、車では進めないって理由ではないと思うよ」

「あ、そっか」


 音に反応する食人鬼だ。車で突っ切れば、食人鬼は気づくだろうし、たとえ振り切ることができても、前から横から襲われたら逃げられない。

 一体ならまだしも、群体でこられたら……車移動は避けるべきだ。

 まあ、今の俺たちには関係ない危険だった。


「車があるのか? 異世界なのに?」


 と、ハッピー。あ、こいつはもしかしたら勝手なイメージで偏見を持っているな……? 俺も最初は勘違いしていたけど、異世界だからと言ってなんでもかんでも『魔法』の世界ではない。

 この異世界は、トレジャーアイテムこそが魔法の代わりと言えるが……俺たちの世界だって、タブレットやインターネットなんて、魔法とも言える技術だ。

 こっちの世界でのトレジャーアイテムが、多少、魔法寄りというだけで、科学とそう変わらない技術だと思えば、車があってもおかしくはない。

 魔法の世界だったとしても車くらいありそうだし。


「葉原さん、運転できるの?」

「アクセルを踏んでハンドルを回すくらいなら。知り合いの私有地で運転したことあるから、できないことはないけどさあ……。免許はもちろん持ってないぞ、細かい操作やルールは知らないな」

「この世界に交通ルールなんてないし、咎めてくる警察もいないんだ……経験があるならハッピーに任せてみよう」


 車があるならルールもあるとは思うが、この緊急事態になってまでルールを守れと言ってくる者はいないだろう。

 この機に乗じて悪事を働く者はいるかもしれないけど……そういうのは自衛をするしかない。やめろと言って止まる相手ではないからな。


 俺たちは道を引き返し、隠しておいた車に戻った。

 被せておいた布を取ると、ハッピーがまず声を上げた。


「おぉ……かっけえ」

「ハッピーが乗ったことがあるのって、こういう車?」

「いや? 細長いヤツ。大人数が乗れるタイプだった」


 芸能人がよく乗ってる車のことだろうか。

 自然と、モナンは後部座席へ……さっきと同じ位置だ。くい、と袖を引かれ、俺も後部座席に座る。となれば、運転はハッピーなので、助手席は委員長になる。

 なにか言いたげなハッピーだったが、年上という自覚があったためか、モナンに指摘することはなかった……譲ってやる、とでも言いたげである。


 そう言えば、モナンは一人だけ年下なんだよな……。

 俺たち先輩の中に囲まれて、やりづらいんじゃないだろうか……?


「葉ぁ先輩、安全運転でお願いしますよー」

「保証はできねえよ」


 そうでもないのかもしれない。

 遠慮なく、俺たちに意見を言うし、わがままも言うし……。不登校だったから、と身構えてしまったが、元来、ずけずけと踏み込んでくるタイプなのかもしれない。


「じゃっ、出発ですよー!」

「で? おいこれ、どうやったらエンジンがかかるんだ?」


 それからしばらく、エンジンをかけるために悪戦苦闘することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る