第22話 古の宝≪トレジャーアイテム≫

「(正直なところ、それくらいのことをしないと、分身の功績で俺が受け取れる『恩恵』に見合うものはなさそうだし……)」

「…………?」

「トンマくん……、打算的ぃ」


 口に出ていたか? 委員長が指摘した。

 モナンは首を傾げ、『なんのことだかさっぱりです』――なんて顔をしている……いいよ、知らなくて。

 分身と違って、本物の俺は打算的だ――なんて、わざわざ言う必要もないしな。


「ところで先輩。今のあたしの姿の――ルルウォンさん? でしたっけ? この人が持っていたこれ――」

「それがトレジャーアイテムな……それの効果は知らないぞ?」

「そのトレジャーアイテムが原因で、入れ替わったなら――似たような効果を持つアイテムを探せばいいんですよね? 船の中のお店で、たくさん並んでいましたけど、お金がないから買えなかった……だから諦めたってわけではないんです、よね?」

「そうだな。……ターミナル、この前の説明、もう一回できるか?」


 運転中のターミナルが、当然ながら振り返らずに。


「……異世界と魂が入れ替わるほどの効果を発揮できるトレジャーアイテムは……、これではない。各国の技術者が、発見された『遺跡の宝』を破壊し、その効果だけを抽出して整えた市販の『製品』だ。恐らく、お前たちが入れ替わったトレジャーアイテムは、『古の宝』、そのものだろう……。だから市販品とは比べものにならない効果を発揮できたんだ……。そんな貴重なものを手に入れられるのは、人脈が豊富な各国の姫くらいだろうし、隠れている沈んだ遺跡の中を掘り起こすくらいしか、見つける手段はないだろう……。大体の発見品は、破壊されて、その効果を広く簡単に使えるように加工されてしまうからな……、なかなか残っていないんだ」


 ターミナルの説明は、俺にとっては復習だった。

 リノスが持っていたトレジャーアイテムがいかに貴重品だったか、あらためて実感する。

 貴重過ぎて、もしかしたら世界に二つと存在しないのかもしれない――とまで思えてきたのだから。


 だから、世界に散らばる食人鬼の『王』であるアキバなら、知らなくとも、探せる状態は整っている……。

 あとは原因を知らせて、食人鬼たちに命令ができれば(……できるか?)、掘り起こすのはそう難しいことではないはずだ。

 だから一刻も早く、アキバの元へ向かわなければ――。


 それに、他の独立ギルドが食人鬼の王――アキバを討伐しようと動いている。

 食人鬼の強さを考えれば、今すぐにどうにかなるとは思えないが、それでも、だらだらと旅をしている暇はない。

 アキバだって、入れ替わって戸惑っているはずだし。


「……いや、それはないか」


 あいつは天才だし、なんとかしているはずだろう。

 なんだかんだ、王として認められているのかもしれないし。


「トンマくん、あの子を天才で片づけないように。京子ちゃんを特別視するのは勝手だけど、だからって『強い』だとか、『なんでもできる』だとか、決めつけないであげて。そういうプレッシャーに……、……強い子ではあるけど、弱さがどこにもないわけじゃないんだから」

「そう、だな…………今も震えて、部屋の隅っこで丸くなっているか……――いや、ないだろ」


「ないとは思うけど、あの子の身も心配してあげてってこと!!」

「ふーん、先輩がそこまで信用しているなら、よほどすごい人なんですねー」


 語ろうと思えば夜通しで語れるぞ――アキバの伝説を、俺はずっと見てきたわけだからな。


「いくつか、伝説を教えてやろうか? アキバは、」


「トンマ、お喋りはそこまでだ……掲示板を信用して進んでいた安全地帯がそろそろ終わる……ここから先は、食人鬼が出るぞ」


 陸に上がってから一日が経ち、森を抜け、山を越えた先に見えた景色は――廃墟だった。

 ここから先は食人鬼が大量にいる……、はずだ。

 俺たちは乗っていた自動車から降りた。

 車のおかげで長距離の移動が楽だった。

 歩きだったらもっと長い時間がかかっていただろう……、それでも一夜は明けたけど。


 地図で見ると遠かった距離も、進んでみれば一日でほとんどが踏破できたらしい。

 食人鬼が音に反応して追いかけてくるらしいのだが、安全地帯と書かれた掲示板の情報は正しかったみたいだ。

 食人鬼たちも食糧を求めて世界中を移動しているようで、俺たちが通ってきた道は隅々まで探索をし終えたようなのだ――その痕跡がたくさんあった。

 それに、海に近いのも理由なのか?


 とにかく、これまでの道は、食人鬼にとっては用済みの場所なのだ。

 途中ですれ違った食人鬼もいたかもしれないが、襲ってこないのであればいないのと同じだ。

 このまま車で目的地までいければ……しかし、数体程度の食人鬼ならまだしも、束になっていれば自動車移動は弱点になる。

 それ以前に、ガソリン(もしくは電気)代わりのトレジャーアイテムの効果もそろそろ切れそうだ。音を立てて突破するよりも、ここから先は身を潜めながら進んだ方がいい――。


 余計な戦闘は避けるべきだ。

 廃墟を見渡せる、高い位置で一旦、様子を見る………。

 食人鬼の出現によって滅んだ国。

 崩壊して、まだ日が浅いのだろう。

 生き残っている人はもういないだろうけど、民家や店は原形を留めていた。

 食糧になりそうなものは……まあなさそうだな。

 飢餓に苦しんでいる食人鬼が、隅々まで食べ尽くしているはずだし……。


 廃墟の手前のここは、まだ安全地帯、とは言えるが……はっきりと境界線が設けられているわけではない。用済みの場所だからと言って、入れないわけではないのだ……――『できない』のではなく、『しない』だけ。

 だから食人鬼が俺たちに気づけば、有利に思える高さも障害にはならないのだ。

 地形を無視して追いかけてくるだろう。


「……食人鬼の国は、この先なんだよな?」

「地図上だとそうだ。場合によっては遠回りをする必要があるがな……。そのあたりは臨機応変に、だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る