第21話 モナンと分身(トンマ)

「これで、私以外が入れ替わったのか……ということは、そろそろ、私も時間の問題か?」


 後ろのターミナルは不安そうに……、いや、そうでもないな。

 ドットが向こうにいるのなら、忠誠心の塊である彼女からすれば、今すぐにでも入れ替わりたいのかもしれない……。


 ターミナルまでいなくなったら……、残された俺たちはどうすればいい? この世界の常識と状況はなんとなく分かったとは言え、ハチミツ姫のような『知らない人間関係』が出てきたら、どうにもできない。

 ターミナルの機転でどうにか誤魔化せた(?)わけだし……、モナンがルルウォンと入れ替わったのは助かった。

 逆だったらと考えると、ゾッとするな……。

 それとも、頼られると、意外としっかりするのだろうか――あのルルウォンでも。


「そろそろ出発したいんだが、いいか? 私がいる内に外に出ないと、面倒なことになるぞ?」


 船の上で、俺たちの事情を知らない者に囲まれた中、ドットのフリをするのは難しい……。

 というか、たぶん無理。

 器用に、今の体に成り切れるのは、委員長くらいだろう……。

 俺とモナンは、ボロばかりが出そうだ。


「? これからどこにいくんですか、先輩」

「ああ、それは――っと、出発しながら話そう。また長くなりそうだ」


 目的地は遠い――のだったか。

 なら、歩きながら、充分に話ができそうだ。

 この世界にいる、食人鬼のことと……――モナンが知る、もう一人の俺のことも。



「――あたし、不登校だったんですよ」


 俺たちは掲示板の情報ルートを元に、食人鬼の国へ向かっている。

 さっきターミナルから聞いた国の名前は、『アルダートゥム』だったか……。

 こっちの世界の人間が海の上へと追いやられた原因となった敵の根城へ向かう道中。

 ルルウォンあらため、モナンが、俺の知らない元の世界での出来事を話してくれた。


 ちなみに、海から陸へ上がれば、移動手段は自動車バギーになる。

 ターミナルの持ち物のようだ……。

 車体はボロボロだが、トレジャーアイテムでエネルギーを充填すれば普通に動く。

 運転はもちろん、ターミナルだ。


 ――閑話休題。

 モナンから事情を聞く……。不登校だったモナンを引っ張り出したのが、俺の分身なのだと言う……――しかし、俺が入れ替わってから、まだ数日だが……(そう言えば、拷問を受けていた時、どれくらいの時間が経っていたのか分からないな……)その時間で不登校の生徒をここまで明るくさせることができるのだろうか。


 モナンに聞いても脚色が混じるだろうし、今度会えたら、分身にやり方を聞いておこう。

 知っておいて損ではないはず。


「へえ……、ちなみに、どういう方法で、モナンは救われたんだ」


 後部座席には俺とモナン。

 委員長は、ターミナルの横に座っている。


「あたしを不登校に追い詰めたいじめの犯人を見つけてくれて、追い詰めてくれました――あれはスカッとしましたね。もちろん、暴力を振るったわけではないですよ? あの子が嫌がることを狙って、成敗してくれたようなものです」


 あの子、と言っているから……相手は女の子か……。

 女の子を相手に、嫌がるところを的確に攻めるとは……、性格は悪いが、しかし暴力で解決できない以上は、そういうやり方しかできないという面もある。

 いじめが陰湿なら、報復も陰湿で返す……。過剰にやり返してしまう可能性があるのなら、されたことをそのまま返した方がいいのかもしれないな。


「その、相手の子はどうなったんだ?」


「さあ? 最後を見届ける前に、気づいたらこっちの世界にいましたから……。あの子がどういう処分になるのかは知りません。ただ、退学にはならないと思います……――先輩がそれは嫌だ、って言い張っていましたから。身代わりを立てた自己保身重視の陰湿ないじめが露見して、学年を飛び越えてあの子の名前と顔が知られていますからね……退学しないで学校生活を送ることが一番の罰則だ、なんて提案したのは先輩でしたよ?」


 ……たぶん、広めたのは俺だろう……、俺の分身だ。

 一発の重さがある痛みよりも、継続的な重圧の方が嫌になる。

 それを罰則として提案するところが、ああ、俺だなあって感じだ。

 分身の方が、少しだけ成長した差を感じるが。


 不登校の頃のモナンと出会っていない今の俺がそう思うのだ、分身だって思うはずである……――たぶん、暴力で解決できる環境が整っていたとしても、同じことをしただろう。

 痛みなんて、大した罰にはならないものだ。

 実際、警察だって犯罪者を収監しているわけだからな――。

 倫理的な問題もあるだろうけど、痛みを与えることはしない。

 最終手段の死刑にしたって、注目すべきは『これで終わり』という絶望感であり、痛みではないのだから。


 だからその子は、もう二度といじめを繰り返したりはしないだろう。

 退学させず、周知させることで、人の目が監視カメラになるのだから。

 そして、弱味を持つ人間に、周りの人間は強く出られる。


 ――心配なのは、その弱味を利用し、その子が別の問題悪意に巻き込まれることだが……それについては俺の分身がなんとかするだろう。

 きっとそのつもりで、学園に残したのだろうしな――俺でもそうするなら、当然、分身だってそうするはずだ。


「そっか……大変だったんだな」

「はい。今は先輩が、大変な目に遭っているみたいですね」

「そう言った君も当事者なんだけどな……、どうしたら元の世界に戻れるのか――その方法を知っているのが、なぜか食人鬼の王になっている、幼馴染アキバだ」


 リノスの体に入っているアキバなら、入れ替わりの原因となったトレジャーアイテムを見つける手段を、持っているかもしれない……。

 トレジャーアイテムが原因だと知らないアキバでは、アイテムを探そうという発想にはならないからな。会いにいって、教えてやらないと――。


 それに、どうして食人鬼の王になっていながら、食人鬼たちを止めないのかも聞かないと……――知らないわけがない。

 食人鬼たちによって、人間が船の上へ追いやられていることに――。

 もしも、あいつに考えがあるなら、聞く必要がある。

 窮屈な生活を強いられている人間側を見てしまえば、なんとかしたいと思うのは普通だろう?

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