第14話 ドットの目的
ターミナルは俺たちの話を、途中で一切、止めなかった。
分からないことだらけのはずだが、いちいち止めていたら進まないと思ったのだろう……。
全てを聞いてから、分からないことをまとめて質問するつもり――だとしても、質問の量はそう変わらない気がするが。
まあ、分からなかったことも、最後まで聞けば自力で解けるものもある。
それでいくつかの質問をカットできるなら、まとめておいた方が得か……。
どこからどこまでを説明するか……と考える余裕はなかった。本当に全部だ。ちょうど委員長もいたので、リノスが俺たちの世界にやってきたところから――今に至るまでを細かく伝える。
ターミナルは途中、難しい顔をしながらも、理解しようとしてくれていた。
ルルウォンはターミナルの隣に座ってはいるが、冷蔵庫から取り出したフルーツを齧っていて、理解する気はなさそうだった……、その上で適度に頷いているのが腹立つな……っ。
どこを見ているのか分からない目で黙々とフルーツを齧っている……、合間に茶々を入れないだけマシか?
その後、数分では終わらなかった説明が、やっと終わり、一瞬の間が生まれてから「……そうか」とターミナルが大きく息を吐いた。
背筋をぐっと伸ばし、俺たちへの警戒も少しだけ解かれた気がするが……、柔らかくなっただけで、なくなったわけではない。
事情を説明しただけで、『警戒する相手ではない』と思わせるのは難しい。
「……って、事情なんだけど……」
「…………確かに、テトラは信じないだろうな……」
腕組みを解いたターミナルが、マグカップに手を伸ばし――そこで、既に中身がないことに気づいて手を引いた。立ち上がって淹れる気にもならなかったのだろう……、座ったまま、指で机をとんとんと叩く。気を紛らわせているだけだろう。
隣のルルウォンは机に突っ伏して、ぐてー、とだらけている。
午後の授業中みたいな態度だ……。見慣れた光景に親近感がある。だから彼女への扱いは雑になってしまうのかもしれないが……。ところで、聞く気がないならせめてターミナルのおかわりくらい淹れてあげればいいのに……茶々を入れないって、そういう意味もあるのか?
「私も……信じなかっただろうな……」
「え、」
「マスター……いや、トンマの説明だけでは、嘘だと切り捨てて拷問していたかもしれない。だが、私よりも警戒心が強く、疑り深いテトラまでが『入れ替わって』、今の話に乗っているなら……。ここまでくれば、信じるに値する『信用』がある」
俺ではなく、委員長でもなく、テトラが動かないなら信憑性がある……ということか。
横の連携がなさそうな三人だが、ターミナルからしても、テトラの存在は大きいのだろうか……。
「警戒心を言えば人一倍だ。いや、人十倍くらいはあるだろうな……。そこだけに関しては、私も認めている。マスターへの忠誠心で遅れを取ることはないが――忠誠心なら私が一番だ」
「む、それは聞き捨てならないね。付き合いが一番長いのはあたしだよ!」
顔を上げたルルウォンが、横から噛みついた。
「最初からいただけだろう……、お前からマスターへの態度は『友達』過ぎる」
「ドットはそういう関係を求めているんだって!!」
ルルウォンは友達、ターミナルは下僕(ドットがそれを求めているかは別として)……なら、テトラとの距離感はどういうものだったのだ?
事情をこうして明かした以上、ドットを深掘りする必要はないわけだが……単純に気になった疑問だった。
興味心もある。
ドットと三人の関係性を――。
「(……意外と恋人だったりするのか……? でなくとも、片想い……とか)」
「それはないな」
俺の呟きが聞こえていたのか(声を出した覚えはないが)、ターミナルが答えた。
「マスターがテトラに恋愛感情を抱くことはない」
「そう、なのか……?」
爆弾魔だったから、は、関係ないだろう……。
そこに嫌悪感があるなら、そもそも傍に置くことさえしないだろうし。
爆弾魔であるテトラを救い、傍に置いている……、保護している?
そこまでしたからには、爆弾魔であること以上の、テトラ自身の魅力があったに違いない。
ちらり、テトラを見る。
俺が見たのは中身の方だけど。
「……ん? どうしたの、トンマくん」
「いや、たぶんテトラも、委員長と似ていたのかなって――」
入れ替わったからには、理由がありそうだ。まさかランダムってことはないだろうし……仮に、そうだったとするなら、俺と委員長がこうして会えたのは奇跡だ。一生分の奇跡を使い果たした気がする……。俺ならいいが、委員長の運まで使っていたら最悪だな。
ともかく、委員長に重なる部分があったのかもしれない。面倒見が良いとか、常識があるとか――ドットを中心としたこのチームの中では、テトラが一番、普通に感じる……。
爆弾魔を相手になにを言っているのだとは思うが、異世界だ――爆弾魔くらい普通にいそうだ。
その経緯を知らないのだから、爆弾魔だけを鵜呑みにして、テトラを非難するのは違う……——クレイジーな爆弾魔であるとは言われていないのだから。
常識人が爆弾を持っただけで、爆弾魔と呼ばれている可能性だってある。
見て分かる、がさつなルルウォン……。
ドットのこと以外では不器用なターミナル……。
そして、過保護にされているドットとくれば、三人をまとめて世話しているのが誰かと言えば、テトラだろう……。というか、そうでなければ、あの思い込みの強さと無茶な拷問を帳消しにするほどの、抱え込むメリットがない。
家庭的であってくれ、と思うのは、拷問を受けた俺の希望でもある……。
「テトラだけじゃなく、私やルルウォンに恋愛感情を抱くこともないだろう。マスターがそういう対象に見ているのは一人だけだ。まあ、外から見た推測でしかないが――」
その推測が外れていたとしても、そう思ってしまう相手がいるということは確実だ。
傍に置いている三人ではないというところも、好意があるが故に誘っていないという見方もできる。
「私たちは、マスターの『大切な人』を助けるために旅をしていたんだ……あの森で私たちがはぐれ、トンマとマスターが入れ替わるまでは、この船に引き返すつもりなんてなかった。……時間もない。こうしている間にも、いつ、彼女が『討伐されても』おかしくはないんだ」
「討伐? ……まるで、化物みたいな扱いだな……」
「化物でなくとも、元凶として扱われている……。――そういう立ち位置にいるんだよ、『リノス姫』は」
「は?」
「え?」
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