第2話 異世界の宝≪トレジャーアイテム≫
……そんなわけない、と笑い飛ばすことはできたが、それに納得できてしまえるほどの証拠が目の前にある。
別人がアキバの容姿を真似た、と言われるよりは、アキバと別人の中身が入れ替わっていると言われた方がまだ分かる……納得できる。
容姿はそのままで、性格がまるっきり違うという印象を説明するには、魂の入れ替わりが一番しっくりくる理由だ……しかし。
魂が入れ替わる?
その原理は?
すると、魂が別人のアキバが身じろぎをした。
深い眠りを経て、浅い眠りに戻ってきたのだろう。
委員長が心を鬼にして、眠るアキバの頬を手の平で軽く叩いて、彼女を起こす。
「……むう、あと五分……」
「怠け癖がついちゃったみたいね。この子の元の役割を考えたら、怠けたくなるのも仕方ないのかもしれないけど……」
ほらー起きてー、と何度も体を揺する委員長。
ゆっくりと目を開けたアキバ(仮)が、ぼーっとした意識で体を起こす。
きょろきょろと視線を回しながら、寝起きの癖なのか、腕にはめていた髪ゴムを取って、長い金髪を後ろでまとめる。ポニーテールだ。アキバの姿でそんな髪型を見たことがなかったので、新鮮だった……、金髪の時点で新鮮ではあったが。
それでも、いくら髪色や髪型を変えても、別人と思い込むのは難しかった。
……どこからどう見ても、アキバだもんなあ。
「おはよ、リーちゃん」
「あ、しずく」
しずく、というのは委員長の名前だ。
思い返せば、アキバの呼び方は『委員長』ではなかったか……まあ二人はいとこだし、名前で呼び合うのが普通か。委員長も、アキバのことは『京子ちゃん』って呼んでるし。
「おはよう……。ところで、どうしてわたしはしずくの太ももで眠ってたの?」
「私が、泣き疲れたリーちゃんを膝枕してあげてたんだよ」
「そうなんだ……膝枕? でもここって太ももだよね……?」
アキバが委員長の太ももを指でつついた。
「しずくの枕はふかふかだから、絶対に勝てないんだよね……」
「それは分かる。一瞬で深い方の眠りに引きずり込まれるんだよな」
「そうそう、しずくの太ももを再現した枕とか発売されないかな……」
いつでもどこでも、委員長の膝枕! ……みたいな商品か。
あったら絶対に買う。
たとえ完全再現されていなくとも、近いというだけで試す価値はあるだろう。
意見が合ったことでぐっと距離が縮まった気がしたが、気がしただけだった。
遅れて俺の存在に気づいたアキバが、ぽかんと口を開け、数秒停止し――「ひっ」と小さく悲鳴を上げて委員長の背中に隠れた。
ただ、アキバの方が体が大きいので、隠れ切れていない。
狙撃手がいたらはみ出したところを狙われ放題だぞ?
「だ、だれですかっ!」
「
発端はアキバだった。
昔、『どこまでも探検隊』を遊びで作った時、あだ名で呼び合うことが流行った時代があったのだ。その時の名残で、俺は『トンマ』、アキバは『アキバ』となった――。
それがクラスでも浸透したのだ。
アキバが言うとなんでも浸透してしまう。
あいつの影響力が凄いのだ……。アキバが賛成すれば、人がそっちに偏るみたいに……逆に、アキバが否定すれば、その意見には誰も近寄らなくなる。
アキバが「嫌い」と言えば、周りは言われた子を仲間外れにする……。いま考えると他人の人生を安易に操作できる立場にいたのだ。
もちろん、本人も俺たちも、その特殊性を利用したりはしなかったが。
ここに大人が手を入れていれば、意図的に仲間外れを作ることもできただろう。転校生を輪に混ぜることも簡単だったはず……。
大人の指図を受けない『ぶれない芯』を持っていたアキバが、本心ではない言葉で人を惑わすとは思えないけどな。
昨日、否定していたはずが、今日は賛成しているなんて、ざらにある。
だからアキバについていくと自然と右往左往だ……。アキバの隣にいるためには、自分も負けないくらいの強い『芯』を持っていないと振り回されて疲れるだけだ。
振り回されるだけならいい……、振り落とされたら、もう戻れない。
そんな気がする……――させてしまうのがアキバという少女である。
「リーちゃん、大丈夫、トンマくんは怖くないからね」
「そうだぞ、俺は怖くないぞ、リーちゃん」
「あなたにリーちゃんとは呼ばれたくないです」
アキバの顔でそれを言われるとやっぱりパワーがあるな……、怖いわけじゃなく、存在を否定された気分だ。ま、否定されようが、俺が肯定していれば存在なんて維持されるし。
たとえアキバの意見だろうと、それに合わせて曲げる必要はない。
そもそも中身が違うなら、目の前にいるのはアキバじゃないしな。
「じゃあなんて呼べばいい? アキバじゃないなら、お前の名前は?」
「………………リノス」
多少の間があったが、教えてはくれた。
リノスだから、『リーちゃん』か。
委員長と距離が近いのは、アキバと委員長がいとこだから、とは別の理由があるのだろう。
「リーちゃんと京子ちゃんの中身が入れ替わって……初めて気づいたのが私なんだと思う。だからリーちゃんからすれば、この世界で初めて見た親が私になるってことだね」
急に知らない世界にやってきて(目を覚まし?)、しかも知らない相手の体に入っていた……その時の不安さは、分からないけど想像はできる。
かなり焦ったはずだ……しかも外側がアキバとなれば、寄ってくる人も多かっただろう。
不安と恐怖の中、匿ってくれたのが委員長だとしたら……運が良い。
アキバと入れ替わるくらいの子だ……やっぱり『持ってる』のかもな。
「ん? じゃあ――アキバの中身は、リノスの体に入ってるってことだよな……? それとも二重人格みたいに、リノスの裏にあいつの魂がいたりするのか?」
「入れ替わってる、だと思います……『トレジャーアイテム』のせいでこうなっていますから。トレジャーアイテム『スイッチャー』……、その効果がまさか、異世界の人間と入れ替わることになる、とは思いませんでしたけど……」
「異世界?」
「はい。わたしはこの世界とは別の世界の人間です。わたしからすれば、ここが異世界なんですけど……トンマさんからすれば違うでしょう?」
「トンマでいい」
さん付けはいらない。あだ名をさん付けするのは、勝手な意見だが、矛盾している気がするんだよな……。親密になりたいのか、距離を維持したいのか分からない。
言うならトンマか、東雲さんだな……中途半端は一番嫌いだ。
アキバもそうだった。
「トンマ……くん」
「まあいいや。委員長もそうだし。こっちはリノスって呼ぶからな?」
話を進める。
「その、原因になったトレジャーアイテム? があるなら、同じことを繰り返せば元に戻せるんじゃないのか?」
入れ替わった原因。
トレジャーアイテム。
問題が起こった当時と同じことを繰り返せば、リノスとアキバがもう一度、入れ替わり、元通り――になるんだとしたら、もうしているはずだろう。
だから本気で「そうした方がいい」と言っているわけではない。
「それはできません」
「どうして?」
「……トレジャーアイテムは『魔力』を原動力として動きます。ですけど、この世界には、魔力がないんです……」
魔力がなければ起動しない。
電気がなければ電化製品は動かないのと同じことか。
リノスと入れ替わったアキバが、魔力が存在する世界で『入れ替わり』を起動しなければ、元に戻ることはできない――ってことだよな?
でも……。
「トレジャーアイテムって、それのことか?」
机の上。立方体の置物だ。
海外のお土産にも見える、これまで積み重ねてきた時代を感じる遺物にも見えるが、だからこそ神秘的な存在感を持っており、見逃せなかった。
お宝とは、こういうものを言うのではないか?
「はい。これが入れ替わりの原因である『スイッチャー』になります」
「……なんであるの?」
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