第四章 有名奇術師の弟子

病院の偵察を続けている間も、ピアノの練習は、時間を見つけて行うようにしていた。


有効な情報も得られないので、久々に店の方を覗いてみた。


すると、俺に曲をリクエストしてきた客の一人が、次のような話を聞かせてくれた。


今、この街に来ている超魔術団なるマジシャンの集団の一人に、すごい美人のうえ、ピアノの腕もかなりのものだという人がいるらしい。


しかも、そいつは千の顔を持つ女(サウザンド・フェイス)と呼ばれていて、そいつの正体を見た者はいないという。


俺は信じられなかったので、

「本当にそんなやついるのか?」と言ったのだが、なぜか、その男は「そいつは、いる!」の

一点張りで譲ろうとしなかった。


俺は居ないと思ったが、

客と揉めたくなかったので、「そうだな…居るかもな…」と適当にあしらってその場を離れようとした。


その男は不満そうな顔をしていたが、急に真面目な顔をして、俺に一曲弾いてくれないか?と言ってきた。


俺は、最近、病院の偵察に行ってばかりで、リクエストされた、その手の弾くのが難しい曲を最近弾いてなかった。


しかし、自分のピアノの腕が鈍っていないか試す良い機会だと思い、弾いてみる事にした。


♪(曲を弾いている)


「大した事ないな」


俺が、曲を弾き終わった直後、その男はそう言った。


「なにっ?」


俺は、前の曲まで、ただ黙って拍手するだけだった男の意外な一言に驚いて叫んだ。


何か言い返そうとしたが、その時その男はもうそこには居なかった。



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