薔薇の姫の騎士
「これは陛下に奏上して。陛下のお許しがいる筈だ。こちらは魔法省から物言いを入れてもらって。この場所で違法な魔法を使っているから退去をと……」
「待ってください、フェリス様、いっぺんに言われましても!」
「書きとって。わからなかったものは後で確認の連絡を。僕はレティシアを待たせてるから、そろそろ帰らないと」
「ええーっ、今日はずっといてくださるんじゃないんですが」
「いや。ちょっと確認に来ただけだから」
えぐえぐとアルノーは書類の山に埋もれそうになりながら泣いている。
「みんな、フェリス様の御姿が見れて喜んでるのにー」
久々に密かにフェリス登庁ということで、あちこちでフェリスは捕まっている。
「リリア僧に関しては、たちのわるい者は徹底して捕縛していくこと。周辺の住民の声もよく聞き取ること」
「はい。そう言えば、今日、動向が気になって見張らせていたいくつかの拠点からリリア僧が集団でいなくなってるようなのですが……フェリス様、何かなさいました?」
「いや? ガレリアに帰ってくれたんなら有難いよね」
にこっとフェリスが微笑んだので、アルノーは余計に怪しんだ。
「……? フェリス様、ホントに何もしてないです? 魔法で何かされたのでは? 何かするときはオレも連れて行ってくださいね? 危ないことするときは、単独行動厳禁ですよ?」
「アルノー、何だかレティシアに似て来たな……」
「ちょ、レイさん、何笑ってるんですか、レイさんからもフェリス様に言って下さい。いくら御強いからって、何処か危険な場所に行くときはちゃんとオレ達も連れて行ってくださいって」
「申し訳ありません、アルノー様。我が主は少し秘密主義なよくないところがございますので、ぜひそのようにお諫め下さい。今朝もレティシア様に、一人で危ないところへ行ってはいけません、と叱られていらっしゃいました」
「おお、レティシア姫、さすがお小さくても、未来の王弟妃です。フェリス様はすぐ一人で無茶をなさいますから、可愛いお妃様からそのように諫めて頂けるとよいですよね」
和やかに会話していると、乱れた足音とともに、フェリス宮の従者たちが入室してきした。
「フェリス様、も、申し訳ありません、レティシア様が……!」
「レティシアが?」
「レティシア様が、王太后宮の女官を装った何者かに誘拐されました!」
「な……っ!? 何処で!? 誰に!?」
剣の柄に手をかけて声をあげたのはアルノーだった。
「本日、王太后宮の女官と名乗る者が、レティシア様が御戻りなら御茶にお誘いしたいと参り、急すぎることとフェリス様の許しがないとフェリス宮の筆頭女官は渋られたのですが、レティシア様が先日の御礼を申し上げたいから参ると……、フェリス宮から王太后宮への移動の馬車のなかでやられました……!」
「……王太后宮に確認は? 義母上の女官というのは?」
表情を動かさないまま、フェリスが従者に確認する。
「はい。同じ顔の女官が確かに王太后宮にいらっしゃるのですが、その女官は朝から王太后様のお傍を離れていらっしゃらないと確認をとりました。馬車に同乗されてたフェリス宮の女官方いわく、黒衣の男の魔導士が女官に化けていたようで、その者がレティシア様を……」
「僕はレティシアを探すから、誰か、魔法省に王宮の結界の不備の確認を」
「フェリス様、オレも……!」
「ありがとう、アルノー。賊が王宮に侵入が可能な状態のようだから、アルノーは陛下やルーファスの警備の再確認を」
ああやっぱり、どんなに叱られても、レティシアはシュヴァリエにおいてくるのだった。
王宮よりもシュヴァリエのほうが、フェリスが好き放題に張り巡らせた結界に守られているのに。
同じ理由でフェリス宮は他の宮より厳重な結界に守られている。
フェリスが戻るまで、フェリス宮から外にでないでいてくれるとよかったのだが、義母上からの誘いとあれば、それはレティシアも断りにくかろう……。
(レティシア、僕を呼んで)
レティシアのフェリスを呼ぶ声が聞こえないということは、意識がないのだろうか?
それとも何かに阻まれているのだろうか? そんなことが可能だろうか?
フェリスの竜気に守られるレティシアをフェリスから隠し通すことなど?
「フェリスさま……!」
近くで誰かに名を呼ばれていたが、フェリスは気を巡らせて、この世界の何処に愛しいレティシアの気配があるのかを探し始めた。
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