薔薇の姫の行方 6
「無欲……というのとは違うと想うのです。フェリス様にはフェリス様の望みがおありになる。あなたが……望むものとは、違うかも知れませんが」
フェリス様て、なんか不思議なことにいっしょうけんめいなのよ。
レティシアと一緒に砂の城を作るのは楽しい、て言ってた。せっかく二人で建てたこの城が波に攫われないように工夫できないものだろうか? てディアナの青い青い海を眺めながら、描いたような眉を動かしていらした。
シュヴァリエの長年の不正を暴いていく時に、そんなことはお小さいフェリス様が気にするようなことじゃありません、てどんなに周りに言われても、僕の年齢はかかわりがない、おかしいことはおかしい! て絶対に引かなかったって。
そんな負けないフェリス様なのに、お義母様にたやすく倒されちゃうのよ。
でもそういうところも好き。
レティシアがフェリス様のこと怖がるんじゃないかって、やたら遠くにレティシアのお部屋用意しちゃうフェリス様も好き。
「僕にはレーヴェのようなことはとてもできない」って困ってしまう無敵じゃないフェリス様が大好き。
「人にない才を持って生まれた者は、それを生かすべきではないか?」
「王冠を奪わなくても生かせるかと」
うん。もちろん、何か理由なり志なりあって、フェリス様に王冠が必要であれば、レティシアも応援するけど。少なくとも、こんな人攫いにどうこう言われる必要はないわ。
お義母様にも申し上げたけど、フェリス様の心はフェリス様のものなのよ。
他人が勝手にどうこうするものじゃないわ。
「可愛げのない娘だな」
「………、………」
聞き慣れた言葉を言われて、思わず、申し訳ありません、て謝りかけて、見知らぬ悪者に謝ることないわね、てやめた。
そう、レティシアは可愛げのない、妙なことばかり言う、不気味な娘だった。
(どうして謝るの? 謝る必要などないよ。僕のレティシアはとても可愛い)
そう言ってくださる神獣似の婚約者様にお逢いするまで。
「なるほど、フェリスが気に入るだけはある、これが五歳の王女とはな。そなたは幼い聖女か? 幼い魔女か? サリアは魔法と縁のない国と聞くが……だからそなたは疎まれたのか、レティシア?」
「いいえ、私は……」
私はただのレティシアなのよ。聖女でもなく、魔女でもなく。いまちょっと身体が青く燃えてるけど、これはきっとフェリス様の魔力か何かで……。
「できれば、そなたにフェリスにディアナの王位を強請ってもらいたかったが……、そなたが嫌だと言うのなら、……ローザン」
「はい、陛下」
陛下!? 陛下ってどういこと!?
この悪者、王様なの!?
リリア僧を憐れんでたってことは、まさかガレリアの……?
「フェリスが愛してやまぬというレティシア姫に、余の助力を頼みたいのだが」
「陛下のお望みをレティシア姫は叶えるでしょう」
虚無な瞳の男の言葉に平伏する黒衣の魔導士の言葉にレティシアは不思議がる。
勝手な事いわないで。悪者の望みなんて、叶えないわ。
「……これはさきほど頂戴いたしました尊きレティシア姫の御髪おぐし」
魔導士の声に、長い長いレティシアの金髪が一本、暗闇の中に浮かび上がる。
「姫の御髪おぐしに少しばかりお働き頂きます」
「……え?」
レティシアの金髪が姿を変える。暗闇に、長い金髪、雪白の肌、夢見るような琥珀の瞳のレティシアそっくりの幼い姫が現れる。
「……わたしの大切なフェリスさま。フェリス様は王になるべき御方です。偉大なるヴォイド王とともに、この世を統べるべき御方です」
「何言ってるのー!?」
レティシアそっくりの少し舌ったらずな甘い声で、その少女(?)は述べた。
「おお、見事なものだな。本物のレティシア姫より、だいぶ可愛いげがあるではないか?」
失礼ね! どういうことよー!
「レティシア姫御本人の素材を頂いてるので、レティシア姫御本人の気配もあり、これならば気難しいフェリス殿下もお気に召すのではと」
自慢げな黒衣の魔導士の声が腹立たしい。
「……やめて! 魔法を解いて! フェリス様に変なことしないで!」
どうしよう。この複製レティシア。
フェリス様、これ、私じゃないって気が付いてくれるかな?
え、待って、この複製レティシアがフェリス様のとこに帰るとしたら、本体の私はどうなるの?
「さて、そなたをどうしようか、レティシア姫?」
「いや……!」
あらためて身の危険を感じて、レティシアは後退った。
何処に逃げれば? どうやって?
ここが何処かもわからないのに?
いえそれよりあのレティシアを何とかしないと、フェリス様に変なことを……。
フェリス様。帰りたい。フェリス様のとこにちゃんと帰りたい……!
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