薔薇の姫の行方 3
「サリアの災いの姫レティシア」
何処の人だか知らないけど、さすが人を勝手に攫うだけあって失礼な人ね!
レティシアの琥珀の瞳には、高位の貴族であろう青年の姿が写った。
魔導士には見えない。人を上から見下ろすことに慣れた瞳。
なんて……哀しい瞳だろう。深い深い闇の深淵を覗くような、青い凍てついた瞳。
少し寂しさを宿すフェリス様の美しい碧い瞳とは違う。
まさしく『虚無』と表現したくなるような、その男の瞳。
ああ、こんな人を想像してたかも。
お嫁に行く前にサリアで、フェリス様の芳しくない噂ばかり聞いてたときに、こういう昏い瞳の人を想像してた気がする。
実際のフェリス様、本人が引き籠り希望してるだけの、後光しょってるくらいキラキラした人だったんだけど。
「サリアを襲った疫病で父を失い母を失い、たった一人生き残ったサリアの王女。叔父に王位を奪われた憐れな娘。生まれた国を追われるように嫁に出された姫君」
「それは……」
王位を奪われたとまでは想ってない。父様を失ったサリアにとって、成人している叔父様のほうが安心できるならそれでいいと納得して引いた。そのあとやけに迫害されるとは予想してなかったけど。
「サリアの王位を取り戻したくはないか? おまえの生まれた国を」
「……?」
どうして人は、王家に生まれた男なら、必ず王位を欲しがるだろう? て決めつけるんだろう? 僕はそんなに野心に燃えてそうな男にでも見えるんだろうか?
て首を傾げてた。私の推しにして、優しい婚約者。
いろいろ凄いのに、何だか天然で可愛いフェリス様。
「おまえのサリアをおまえの手に取り戻したいとは思わないか?」
「私のサリアではありません。サリアはサリアを愛する民のものです。私はディアナに嫁し、ディアナの王弟妃となります。フェリス様の妃、レーヴェ様の娘となる私は、生まれた国であるサリアにはいかなる権利も持ちません」
はっ。最近ずっとフェリス様とばかり話してるから、知らない悪人に、真面目に答え過ぎたかも。
もっと五歳の姫らしく……。
「おもしろい娘だ。さすが小さくてもあやつの妃よの」
「あなたは誰……?」
ディアナの貴族? いや、ディアナの貴族であれば、フェリス様をあやつ呼ばわりはしないはず……。
「余か? 余は、この世界を変えたい者だ」
そんな革新的な人が、何故そんな虚無な眼をしてるの……。
世界も、もうちょっと善良そうな人に変えられたいのでは……。
「そなたとて、この世の理不尽を怨む娘であろう? 王女に生まれながら国を追われたレティシア」
「わたし……?」
でも、私、サリアからは追われたけど、幸せなの。
サリアにいたときより、日本にいたときより、何なら人生二回分あわせていま一番幸せなの。
不甲斐ない僕のせいで苦労をかけてすまない、レティシア、て謝るうちの婚約者様といると、何としてもこの人を守ってあげなければ! て想うの。
私、私と似たあの寂しい瞳をした王子様を守ってあげたいの。
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