薔薇の姫の行方
「レティシア様……!」
女官の顔をしていた黒衣の男とともにレティシアの小さな身体がかき消えてしまい、リタは発狂しそうな
叫びをあげた。
「何ということ、よりにもよって王太后様の女官を装って……!」
「だ、誰ぞ、……フェリス様に……!」
サキはフェリスの名を呼ぶ。
「サキ様、リタ様、如何なさいましたか?」
「……レティシア様が! 何者かに攫われました!」
「……な、誰も馬車には近づいてはおりませぬが……!?」
フェリス宮から馬車の護衛に数名つれてきた者達が、困惑しきりに言葉を返してくる。
とはいえ、フェリス宮から王太后宮への移動であり、レティシアに何かひどく危険を感じていた訳でもないので、護衛の者もおだやかに供をしていた。
「馬車の中でのことです! あの王太后の女官と名乗った者が男でした! 私達は黒衣の魔導士に謀られ、レティシア姫を連れ去られました……!」
悔しい。
あまりに不意打ちの王太后からの誘いは怪しんだものの、あの王太后の女官の顔には確かにリタもサキも見覚えがあったのだ。だから間違いはないだろうと……。
その女官の顔ごと作り物だった! 魔導士め、何処かに攫うなら、馬車ごと攫えばいいものを……!
そうしたら、レティシア様を御一人にせずにすんだのに……!
「フェリス様に使いを。魔法省にも……何をやっているのです、リタ」
「だって! ここから! ここから消えてしまったので、私もここからレティシア様のもとへ行けぬかと……!」
サキがレティシアのいた椅子の背に震える指で触れて、そこから何処かへ転移できぬものかともがいている。
「ああ、レティシア様、御一人でどんなに怖い思いを……!」
「落ち着きなさい、リタが触り過ぎて、敵の痕跡を消してはいけません。レティシア様はフェリス様の妃、レーヴェ様の加護のある姫君です。すぐに御戻りになります」
そう言葉にしたら、それが本当になるような気がして、サキは強い気持ちでリタを宥めた。
「そうですよね、サキ様、すぐに……御戻りに……!」
サキの言葉に男たちが使いに走っていく。感極まったようにリタの瞳から涙が零れた。
(……レティシアが……)
(レティシアが……)
(私達の薔薇の姫が……)
(何てことなの、不覚にも無礼者を通して、レティシアを奪われてしまったわ……)
王宮の庭園の薔薇たちが不穏気に風にざわめいていた。
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