王太后宮からのお誘い 2


「レティシア様、いかに王太后様からとはいえ、このような不躾……いえ、急なお誘いに応じる必要は……」


御茶会にふさわしい桜色のドレスに着替えさせてくれながら、サキが心配そうだ。


それはそうなの。


王太后様のお誘いは断りにくいとは言うものの、本来なら、ずっと前から季節の花を添えた御茶会の御招待状を頂いて、お義母様との大事な御茶会の為に女官達が支度に張り切るのが普通なので、いま来て、なんてことはないのだけど……。


「ありがとう、サキ。でも、私、王太后様がサリアからの占い師の御手紙とりあわないでくださったの、本当に感謝してるの」


「王太后様のところに変な御手紙送ってくるところがあざといというか……きっとフェリス様御本人に申し上げても、相手にされないのがサリア側もわかってたんだと思いますわ」


ぷんぷん怒りながら、ドレスを整えてくれるリタが可愛い。


フェリス様は魔法に長けてらっしゃるので


(僕の幸福の姫を見誤るような占い師は先見の才能に恵まれてない。廃業したほうがいい)


て一刀両断されてたけど。


でもね、占い師のミゲルがサリアだと叔父様達に何されるかわからないからディアナに引き取ってるの。


フェリス様は凄く怒ってても、やっぱり過保護な人なの……。


優しい婚約者のことを思うと、レティシアの少し強張ってた桜色の唇に微笑みが戻った。


「本当はお義母様、フェリス様と仲直りされたいのかもしれないし……」


「ああ、私達の可愛らしいレティシア様! 世界はそんなレティシア様のような美しい心ばかりで出来てませんわ! いえでもレティシア様にはぜひそのままでいて頂きたいですわ!」


「リタ、だってね……」


ううん、違うの。


レティシアだって迫害されてたサリアの王女なので、そんなに宮廷は甘くないとはわかってるんだけど、でも……。


「何か寂しそうに……羨ましそうに、ご覧になるのよ、お義母様、私とフェリス様を」


「それは……身勝手な……嫉妬とでも申しましょうか……。マグダレーナ様がお望みにならなかったのです。フェリス様はお義母上様にずっと孝を尽くしておいでてすのに」


「そうね。フェリス様はお義母様にも優しいわ……苦手でいらっしゃるのに」


側妃などとんでもない、僕は二人の妃は持ちません、竜王陛下のようにたった一人の妃を大事にしたいと……と最初の御茶会で言った時のフェリス様とお義母様の様子を覚えている。


あれはフェリス様の実のお母様と、そしてなさぬ仲のお義母様を想っての言葉。


お父様の愛がふたつに分かれたことで、辛い想いをした二人の大切な女性への言葉……。


「マグダレーナ様が、フェリス様と仲睦まじいレティシア様を羨ましいのでしたら、フェリス様と親子でダンスでもなさればいいのです。フェリス様はきっと華麗に御相手されますわ」


「リタ……」


厳めしい様子のお義母様が難しい顔でフェリス様とダンスする様子を思い浮かべてしまって、レティシアは少し笑った。


「こほん。リタ。御無礼ですよ」


サキもちょっと笑うのを堪えてる様子。


「あら、なかなかよき案だと思うのですが……フェリス様と王太后様のお仲のよさも宣伝できます」


「フェリス様がお困りになります」


お二人でダンスはともかくとしても、普段から謀叛を企んでると思われない程度には、フェリス様の御心を伝えられたらいいのになー。


ううう、お義母様ちょっと怖いけど、御茶会、がんばるぞ! 


フェリス様が御戻りになる前に、ちょっとくらいお嫁様としてお役に立つぞ!


えいえい、おー!


鏡に向かって、レティシアは心密かに気合をいれた。

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