王太后宮からのお誘い
「フェリス様とレティシア様が御戻りとお聞きして、王太后様がぜひ密かにレティシア様にお逢いしたいとのことです」
「お義母様が……?」
レティシアはシュヴァリエでの初めてのフェリスとの薔薇祭のお話をして、久しぶりにリタとサキの二人に甘えて金髪を梳いてもらったりして甘えていたのだが、突然の使者に面食らった。
「王太后様は、どうして私達が密かに戻ったのを御存じなのでしょう?」
もちろん王太后様にはフェリス様が密かに戻るとはお知らせしていない。残念ながら普段仲良しではないので。
フェリス様的には、街のリリア僧の様子を見て(ちょっとまとめてどさーっと追い返しといたので、フェリス様が魔力使いすぎじゃないか心配なの……)、王宮の普段のフェリス様の執務室で資料を閲覧して、魔法省に寄るか寄らないかぐらいの御予定って話されてた。
仲良しのマーロウ先生とか、たぶん騎士のアルノーさん辺りには逢うのかもだけど、私とフェリス様、王太后様から謹慎の処遇を頂いたのを反省してシュヴァリエに引き籠ってる身分なので。
ふたりで元気に引き籠ってる!
薔薇祭に参加したり、サリアに花嫁交換の申し出を取り下げてもらいに行ったりしつつ、日々、楽しくシュヴァリエに引き籠ってるの。
王太后様に御不快を表現? て最初は思ってたんだけど、フェリス様は、リリア僧が流したマリウス陛下が竜王剣を抜けないって噂を早くなかったことにしたかっただけなのかも。
どうしても華やかなフェリス様が王宮にいらっしゃると、謹慎騒ぎの話を噂好きの宮廷人がずっとしたがるだろうし……。
フェリス様の美貌に似合わぬお人好しが、お義母様にも世の人々にも全然伝わってないのが切ない。
たまに、フェリス様、人の心配してる場合じゃありません、背中にお人好して札貼りますよてレティシア言っちゃうけど、当のフェリス様、それ聞いて、大笑いしてる。
(僕をお人好し扱いするのはレティシアくらいだよ)て。
でもねぇ、本当に、お人好しだと思うのよ。じゃなかったら、五歳の姫と婚約しないだろうし。
「はい。レティシア様。何やらディアナの街角にて御二人を見かけたという者がおり、フェリス宮に確認をと私をこちらに。もしレティシア姫がおいでなら、先日の御手紙の御礼もかねて、御茶にお誘いするようにと」
「……まあ」
どうしたものか、困ったわね、とレティシアはサキとリタと琥珀の瞳で会話する。
「嬉しいお誘いですが、フェリス様がいまいらっしゃらないのです」
レティシアは可愛らしい五歳の幼い姫らしく小首を傾げる。
「御心配ありません、レティシア様。王太后様は、レティシア様と女同士の御茶をご希望です」
「………」
そんな怖い御茶にはぜひ行きたくないし、お義母様がフェリス様とレティシアの移動を誰よりも早く把握しておいでなのが不気味すぎるが、さりとてディアナの国母様からのお誘いを拒める理由が見つからない。
まして、幼い身とはいえ、ディアナ王家の嫁としては、フェリス様と義母上の仲直りのお役に立つべきであろう(仲直りというか、お義母上が一人で逆切れしてる感なのだが)。
「……申し訳ありませんが、レティシア様は、本日はシュヴァリエからの移動にて大変お疲れで……」
サキが体調不良を理由に断ってくれようとしている。
「いえ、大丈夫。お義母様のところにお伺いします」
本当は怖いから、フェリス様と一緒がいいけれど、お義母様のところには、サリアからの花嫁交換の話をとりあわないでくださった御礼に伺わないと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます