ディアナの騎士達3

「そうですね。あくまで怪しき者は排除の王命であって、全リリア僧の国外退去の命を我らは持っている訳ではないので……、ただ我らが手を出しかねていても、ディアナの民はリリア僧を嫌っているようですが」


アルノーは苦笑気味にフェリスに応じる。


苛烈過ぎぬ兄マリウスの気性をフェリスは愛しているし、ディアナの騎士達も愛しているが、王の優しさゆえに困難を生じることも無論ある。


「僕が兄上にお願いするべきだろうか。全リリア僧退去の王命を出して欲しいと」


無論、リリア僧の中にも善なる者もいるだろうが、現時点では、悪しき企みのない者かどうかの判別がつきにくい。


「いえ、それは騎士団から申請を出します。フェリス様があまり矢面に立たれるべきではないかと……ただでさえ、地下牢の件で、リリア僧の恨みを買っているかと」


「邪神の使いとして?」


フェリスは少し微笑した。不思議なことに、少しも怖くも哀しくもない。


(わたしのフェリス様は何処に出しても恥ずかしくない優しい推しです!  邪神の使いとはどういうことですか! 悪? 悪どころか、うちのフェリス様は少しお人好しが過ぎるくらいです!)


レティシアの可愛らしい声が木霊する。


知らない誰かに邪神の化身のように憎まれても、それを否定してくれる愛しい姫がいる。


このフェリスの邸の中に。フェリスのこの腕の中に。


「戯言です。そもそもよく存じ上げぬ遠い国の神様を押し売りされて、我がディアナのレーヴェ様を邪神扱い、フェリス様を邪神の使い扱いとはガレリアはふざけてるのかと……あ、口汚くて、申し訳ありません。……リリア僧は何故かひどくレーヴェ様を憎んでいて、レーヴェ様の絵画や石像などを破壊するので、もとよりディアナっ子に嫌がられていたのですが……、国王陛下の竜王剣のあらぬ噂で中傷するなぞ、もはや僧とは言いがたき振る舞いのせいで、気の荒いディアナっ子とすぐ喧嘩になりかけるので、リリア僧達の安全の為にもガレリアに帰って頂きたいのですが……」


「ディアナ以外で、不穏である、と全リリア僧国外退去の命を出した国もいくらかあるのだよね?」


「はい。今回のディアナでの暴挙を受けて、とのことですが、もともとリリア僧に退去して頂きたかったところに、実にいい理由が出来た、という動きなのではないかと……」


「これ幸いと追い出されるということは、リリア僧の各国での日頃の行いがあまり喜ばれてなかったのだろうね」


宗教というのは、やはり人の心の帰依するところなので、おかしな思惑が絡むと非常に面倒である。


「はい。ただそれがフェリス様がディアナでのリリア僧の罪を暴いた事件を発端に、となると、フェリス様が無駄に憎まれそうで心配です。私ごときが案じるようなか弱いフェリス様ではないとは言え、御婚姻の儀も近い大事な御身体です。身辺の警護は増して下さい。王都にお帰り頂いたほうが、何事かあればすぐ馳せ参じられて、我らは安心ですが……」


「アルノーに心配された。雨が降るかな」


「フェリス様。レーヴェ様の絵画など執拗に破壊してるリリア僧を詮議してると不安になるのですよ。この私達の愛するレーヴェ様を憎む者達が、レーヴェ様に似たフェリス様を害すのではないかと」


「ありがとう、アルノー。それこそ婚姻前の身だものね。レティシアの為にも気を付けるよ。リリア僧残党取り締まりの現場の様子を見たり、兄上と相談したりに、やはりちょっと王都に行くべきかな……」


ガレリアのリリア神殿で大司教から邪悪な竜の化身のように呪われているとも知らず、フェリスはディアナの治安と兄王マリウスや世継ぎのルーファスの身を案じていた。

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