薔薇の姫は、シュヴァリエの恵みを愛でる
「薔薇と生ハムのサラダでございます」
「可愛い~」
お夕飯! 生ハムで作ってくれた薔薇が可愛い。
おうちで二人でまったり食べてるけど、お祭でなくてよかったのかな?
「フェリス様、お祭、お顔出さなくて大丈夫ですか?」
「うん。今年はね、レティシアと婚姻前なこともあって、僕不在の形で予定立ててあるから」
「いつもはたくさん出てらしたのですね。私の為にすみませ……」
フェリス様にお祭大好きのイメージはあんまり湧かないけど、シュヴァリエの領民さんとお話されてるとこ見ると、とっても仲良しなので、普段はきっとたくさん行事に参加されてるに違いない。
「いや、レティシアが謝ることは何も。僕が、婚姻前とは何をするものなんだろう? こちらに慣れない姫の為に、王宮で社交でもするべきだろうか……と最初考えてただけで。それも出来なくなって申し訳ないけど」
「ディアナ王宮も豪奢で素敵ですが、シュヴァリエ、居心地よくて楽しいです! 私の推しのフェリス様の聖地です!」
だって住んでる人がみんなフェリス様推しなんだよ!? シュヴァリエ、同担だらけなの!
天国じゃない!?
「聖地ってレティシア……」
「フェリス様は普段なけなしの愛想で領民の方々を激励されてますから、レティシア様との婚姻のおかげで今年は休めたと言うところです」
「レイ。僕をまったく愛想のない男のように言うな」
「おや、我が主は社交性溢れるフェリス王弟殿下でしたか? でしたら、私が方々から叱られたりはしないと思うのですが……」
「レイ、フェリス様、領民さんと仲良しだわ。不愛想な領主ではないわ」
「はい、レティシア様。フェリス様は、妙な思惑のない方々はお好きなのです」
「ああ……」
それはやっぱり王宮とこちらは違うかも。齢五歳のレティシアでも骨身に染みて知っている。宮廷というのは何処であれ、様々な方がいらっしゃる処なので。
「玉ねぎとじゃがいものスープでございます」
「ありがとう」
あー、玉ねぎとじゃがいものスープ、よそゆきのごはんでなく、おうちごはん、てかんじで落ち着くにゃー。はうっ!?
「フェリス様!」
「どうかした、レティシア?」
「フェリス様、このじゃがいも、美味しいです!」
レティシアは輝く琥珀の瞳で訴えた。
訴えてから、物語の王子様(現実にも王子様でいらっしゃるが……)のようなうちの推し様に、じゃがいもの話はおかしいかしら? とちょっと思ったのだが。
「そ、そう? そんなに?」
フェリスが戸惑っている。
「はい! じゃがいもがほくほくしてます! とろけます! 美味しいです! 食べてみてください!」
幸せを噛み締めつつ、レティシアは訴えた。
じゃがいも美味しいー。
そして食べ物が美味しいって幸せな事だ。
やっぱり美味しいものも、あまりにも哀しみに打ちのめされてるときは、申し訳ない事に、味がよくわからない。
「うん、美味しい……」
レティシアにあまりにも輝く期待の瞳で見つめられて、フェリスは少々緊張の面持ちでごくごく平凡なじゃがいもと玉ねぎのスープを口に運んだ。
「でしょ!?」
「今年のじゃがいもなのかな?」
「はい。フェリス様、今年の春収穫のじゃがいもです。レティシア様、シュヴァリエのじゃがいもをお褒め頂きありがとううございます」
「シュヴァリエのじゃがいもなのですか? とっても美味しいです!」
こんなに美味しいものが収穫できる土地にお嫁に来れて幸せ!
食いしん坊万歳!
「はい。きっといろんなものが少しずつ、お国のものとは違うでしょうから、姫のお口にあいますようにと緊張している厨房も、農家の者もきっと喜びます」
給仕をしていた者が、嬉しそうにレティシアに礼を言う。
「私が想うに、ディアナの御料理のほうが、食べ物そのものの味が生きてて美味しいです。あ、いえ、サリアの食べ物がまずい訳ではないのですが」
なんかね、ディアナのほうが、味付けはどっちかっていうと控えめかも。サリアのほうが濃いと思う。
でも、全体にディアナのほうが美味しいと思う……。
「レティシアの口にあってよかった。……僕はあまり食材について考えないで食べてるから、じゃがいもについて、食事の席で語ったのは初めてだ」
「は! あまり食事の内容について語るのはしたないとかありますか!?」
く、国に寄って、食卓マナーもいろいろあるだろうから。
「いや、そんなことはないよ。話していて、とても楽しい。これからも、レティシアが美味しいものをたくさん僕に教えて欲しい」
「だ、大丈夫であれば、よかったです……! 美味しいですよね、このじゃがいも!」
そう言えば、貴婦人がじゃがいもを褒めるシーンは、読んだ物語になかったわ、とレティシアは焦ったのだが、フェリスが本当に楽しそうだったので、安心して、美味しいじゃがいもと玉ねぎのスープを満喫した。
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