薔薇のジャムは初恋の味 3

「おばあ様はいつも、ルーファスは竜王陛下の血を受けているのですよ、だから強い子になれます、と僕に仰います」


そう語るときの祖母マグダレーナがどんなに愛し気で誇らしげか、ルーファスは知ってる。


おばあ様がどんなに竜王陛下を大好きか知ってる。なのに、なんで、同じ貌のフェリス叔父上には冷たいんだ!? と正直、ルーファスにはわけがわからない。


ルーファスが生まれる前に亡くなったステファンおじい様が、おばあ様をひどく傷つけたのだと聞いたけれど、それはステファンおじい様に怒ってほしい。


父様とフェリス叔父上は、兄弟だけど、母様が違って、フェリス叔父上はおばあ様の子ではないから、むずかしいのだ、と皆がこっそり囁く。


でも、フェリス叔父上がおばあ様に失礼ならともかく、フェリス叔父上は何もしてないのに。


「そうだね、ルーファス。おばあ様は昔、この父にもよくそう言ってたよ」


「父上にも」


父上は、ルーファスに優しくて、母上に優しくて、おばあ様にもみんなにも優しい。


ルーファス自慢の父上で、自慢の国王陛下だ。


「父上が竜王剣を抜けないってひどい嘘に、おばあ様がお怒りになるのはわかりますが、だからといってフェリス叔父上にやつあた……」


やつあたり、と言いかけたルーファスの唇を、母のポーラの指が塞ぐ。


「ちょっとした誤解があったのよ、ルーファス。もうおばあ様の誤解は解けたわ」


「おばあ様はフェリス叔父上に関してだけ、ちょっとした誤解が多すぎです!」


ルーファスは憤慨した。


逢ったばかりの婚約者が謹慎なんてうけたら、遠い国から来たちびがびっくりするじゃないか!


ちびだってああ見えても緊張してて怖がってるかもしれないじゃないか!


(フェリス様の心はフェリス様のものです!)


なんだか、ちびが初めての御茶会で、そう言って、おばあ様に怒ったとき、ルーファスは想ったのだ。


そうだ。これはこんな遠くから来て、今日初めて御茶会に参加する小さな姫に言わせるべきじゃなくて、ずっとそばにいた僕が、フェリス叔父上の為に言うべき言葉だったんじゃないのか? って。


おばあ様はディアナでお父様より偉いぐらいの偉い人だから、ルーファスには、そんな勇気はなかったんだけど。


なので、ルーファスは、レティシアには一目も二目も置いている。


あのちびは、なかなかやる姫だ。


だが、なかなかやるわりに、ちっちゃいし、ふわふわしてるし、とっても危なっかしいのだ……。


「そうねぇ。おばあ様は、フェリス叔父上にいつも意地悪なさるけど、きっと竜王陛下似のフェリス叔父上が好きなのよ。いろいろむつかしいけどね」


「ものすごく、わかりにくいです。好きな人は大事にするものです」


「そうだな。ルーファス。ルーファスはそういう大人になりなさい」


「ちちうえ、いまは僕の話ではなくて、ですね……」


ルーファスは好きな人は大事にしたい。


フェリス叔父上も、その……小さな婚約者も。


けっして、ふしだらな思いではない。


ちびは、遠くから来て、きっと叔父上のほかに頼る人もなくて、うんと心細いだろうから、僕は、と、友として、あのちびを気にしてやらなければならないのだ! 


なのに、僕が薔薇祭に行けないなんて、迷惑なリリア僧には全員まとめてガレリアに帰ってもらいたい。


もうすぐ結婚するフェリス叔父上を謹慎などにしたおばあ様も深く深く、海の底よりも深く反省してもらいたい。


そしてちびには、毎晩、僕の夢に出てこないでもらいたい。

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