薔薇のジャムは初恋の味
「ポーラ。フェリスとレティシア姫から、薔薇祭の贈り物を頂いたよ」
「まあ、陛下。嬉しいですわ」
ディアナ王妃の部屋は、主の性格を写して、いつも穏やかな空気に包まれている。
「叔父上とちび……レティシア姫から?」
母のところで、御茶をしていたディアナ王太子ルーファスは国王である父の顔を見上げる。
「レティシア姫は初めての薔薇祭を楽しんでいらっしゃるかしら? 私も早くレティシア姫にお逢いしたいわ」
「そうか。悪戯っ子のルーファスは王太后の茶会に忍び込んで、フェリスの婚約者の姫に逢ったそうだが、ポーラは逢えておらぬか」
「はい。陛下。私、早く可愛らしい妹姫にお逢いしたいですわ」
おばあさまの茶会に忍び込んだのが父上にもバレてる、とルーファスは参っていたが、ポーラは瞳を輝かせていた。
「遠くからいらしたレティシア姫が寂しい想いをしてないか、心配ね、ルーファス」
「そ、そ、そ、そうですね」
ルーファスは母に促されて、御茶を吹きそうになる。
ぼ、僕は、心配してないぞ、あのちびのことなんて。
ま、毎晩、夢に見たりしてないぞ。
と連日、夢に出て来てかくれ鬼をしたがるレティシアに困っていた。
いつも、夢の中のレティシアは、かくれ鬼の途中で、フェリスを見つけると、フェリス様! とはしゃいで飛んで行ってしまう……。
現実を写し過ぎて、毎朝何とも言えない寝覚めである。
「ディアナ宮廷にいらしたばかりですのに、シュヴァリエに移動で、レティシア姫はお疲れなのでは」
母付きの年配の侍女が、心配の言葉を述べる。
「いや、レティシア姫はシュヴァリエを気にいったようだ」
「まあ、よかった。シュヴァリエはいま一番美しい季節ですものね」
「父上、母上、僕も、一番美しい季節のシュヴァリエの薔薇祭に行きたいです」
そうだ! それだ! とルーファスはおねだりを申請した。
「うん? 確かに薔薇祭は美しいが、ルーファスが行くとなると、少し物々しくなってしまうね」
「そうねぇ。申請を出しておいて、薔薇祭には来年おいでなさいな、ルーファス」
「今年、行きたいのです」
「どうして、ルーファス? あなた、急に薔薇の花が大好きになったの? それとも薔薇のような頬をした気になる姫でもいるの?」
「は、母上、そんな姫はいません」
「そうね。王太子たるもの、婚約者のいる姫に、懸想してはいけないわ」
「け、けそうなどしておりません! ちび姫のことなどどうでもいいのです! ぼ、僕は、ご領地でゆっくりくつろがれてるフェリス叔父上にお逢いしたいだけです!」
「ゆっくり寛がれてるフェリス叔父上のお邪魔をしてはダメよ。フェリス殿下とレティシア姫の御二人は婚礼の準備中なのよ。御二人のとても大切な時間なのです。あなたがおいでになると、あなたの警備で力を割かねばなりません」
「う……」
「ポーラ。……ルーファス、いつもなら特別に赦すのだが、今回は我慢できるかい? 先日のリリア僧の騒ぎが完全には落ち着いていなくて、フェリスも私とルーファスの警備を増やして欲しいと心配している。フェリスも名目とは言え、身を慎んで領地に戻っている形だから」
「……叔父上が、僕と父上の心配を?」
「そうだよ、竜王剣の噂を流したリリア僧が、余とルーファスに悪さをしないかとフェリスは案じていたよ。ルーファスの警備を増やしてくれとね」
髪を撫でてくれる父の手の優しさが心地いい。
それで最近また王太子宮の護衛の人数が増えたのか? とルーファスは思い至る。
警護の者の数自体は、大きな式典などあると増員されるから、叔父上とちびの結婚式に向けて今から増やしてるのか? と思っていた。
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