リリア神殿にて
「大司教様。セイシェルよりリリア僧退去の触れが出ました。ファレルでもリリア僧が行動の制限を受けています。ディアナにおいて、リリア僧が致したことが、まるで邪悪な行いのように各国から非難されております」
「何と世界は無理解なのだ。我らが、憐れなディアナの子らを、邪神レーヴェの魔の手から救わんと、善なる心で果敢に行った聖なる行いを……」
うちの子達を勝手に攫おうとしといて、何言ってやがる、と邪神レーヴェが憤慨するようなことを、リリアの大司教は訴えている。
見解の相違というもので、リリアの大司教の訴えは、なかなかディアナでも他国でも受け入れがたく、嫌がる無辜の民を攫って迄、改宗させて使役しようとする悪しきリリア僧を国外退去させよ、という動きが起きている。
現代のフローレンス大陸では、災害も吉事も、魔法の網により、一夜にして伝わる。
ディアナでリリア僧が行ったことは、ディアナだけのことに留まらない。
フローレンス大陸で最も豊かなディアナに対して、そんな大それたことをするならば、いわんや我が国に居住するリリア僧も悪の使いかも知れぬ、と誘拐など計画してなかった国で迄迫害されている。
「何と忌々しいあの邪神の現身フェリスよ……! あやつのおかげで罪なき我がリリア僧達が、大陸各地で迫害を受ける羽目に!」
邪神の使いのフェリスはもちろんそんなことに関与はしていない。
フェリスが、各国の友人達に「リリア僧に御用心を」と伝令を送った訳でもない。
だが、フローレンス大陸で魔法を学ぶ者の多くが、ディアナで数年学ぶ為、ディアナの竜王陛下似の王弟殿下の気性もよく知っている。
決して、荒事好きでもなく、表立つのが好きでもないフェリスが、わざわざ婚姻目前の薔薇祭のさなかに、リリア僧の粛清に動いたということは、それほどのことなのだ、と認知される。
「フェリス殿下と違い、ディアナのマクシミリアン殿は我らの訪問を歓迎して下さってる御様子……」
「阿呆な男ほど使いやすいの見本のような男じゃの」
カルロは冷たく言い捨てた。
「猊下、手厳しゅうございます」
「褒めておる。賢しくない男の方がこちらとしては有難い」
「陛下は、まだ少しフェリス殿下に未練がおありのようですが」
「ふん。陛下はあの男を跪かせたかったのじゃ。それは確かに絵になるわ。まるで邪神レーヴェ本人がガレリア王に従うようでな」
「当代のディアナ王の治世が華やかなのも、さながら、生きたレーヴェ神に守られているかのようだから、と皆言うておる。だが、あんな金にも欲にも興味のない男はどうしようもない。まことにあやつの心は氷よ。竜の鱗のように冷たいのであろうよ」
「それが、猊下、どうやらディアナの氷の王子はサリアの幼い姫に陥落した様ですよ」
「何? 陥落などと、大袈裟じゃな。サリアの姫は子供であろう?」
「ですか、フェリス殿下は連日サリアのレティシア姫を連れ歩き、二人はまるで共に育った兄と妹のように仲がいいとか。ディアナでもサリアでも、こちらのフェリス殿下とレティシア姫の絵姿が飛ぶように売れるそうです」
「ほう。この娘は、氷の王弟殿下の弱みとなろうかの?」
リリアの大司教カルロは、興味深げに、フェリスと仲睦まじく微笑む、可愛らしいレティシアの絵姿を見下ろした。
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