推し活の奨め 2
「レイ、シュヴァリエの紋章、素敵なデザインね」
「美しいですよね。これからは、レティシア様の紋章となります。竜が薔薇を守るような、仲睦まじきこの紋は、フェリス様とレティシア様の象徴としてふさわしいと心から思います」
「私とフェリス様……」
そう言われると、何だか気恥ずかしいけど、そうだー、レティシアも、フェリス様のおうちの子になるから、これはレティシアの家紋でもあるんだー、と驚く。
これはきっと、フェリス様が、シュヴァリエの領地を前王ステファン様から託された時に、デザインされたのよね。
竜が薔薇を守るような、まさにフェリス様が、シュヴァリエの地を永遠に守るという誓いのような紋。
レティシアは薔薇の姫になるから、竜のフェリス様と薔薇の姫のレティシアが仲良しっぽくていいかも……。
「うちの母など、この紋を眺めながら、美しいフェリス様に永遠にまことの可愛らしい薔薇の姫が現れなかったら、きっとそれは私のお育て方の責任……いったい何がいけなかったのか……と勝手に黄昏れておりました」
「サキが? サキ可愛い……」
サキ的には、フェリス様の将来を憂えて可愛いどころではなかったろうけども、あんなに美貌のフェリス様にお嫁さんが来ない……と嘆いてたサキを想うと、何だか可愛くて……。
「サキが知らないだけで、フェリス様にもきっと何か恋話も……」
「いえ、ございません」
光の速さでレイが即答する。
「レイ。わたくしに隠さなくても大丈夫……」
私はむしろ推しのフェリス様の恋話、ちょっと聞いてみたいような……!
「いえ、レティシア姫に隠すようなお話が何もございません。フェリス様は残念な程、恋に興味のない御方です」
「そ、そんな」
そう言えば!
フェリス、レティシアが初恋だと思うぞ? て精霊さんが言ってたような……?
いやいやいや、それは幾ら何でも……。
レティシアもちょっと生まれ変わって、父様母様と幸せに暮らしてたら、いきなり二人が病にかかって、初恋どころではなかったけど。
十七歳ともなれば、成就はしてなくても、初恋や片恋の経験があるのでは?
フェリス様の片恋という言葉が激しく不協和音なくらい、お美しい方なのだけれど。
「王宮に咲く花だとてフェリス様よりは恋心を解すだろう、と歌に謡われて呆れられる御方ですので……」
「むう。フェリス様の感情表現が、他の方よりわかりにくいからって、それは詩人が好き勝手謡いすぎなのでは?」
レティシアはぷくっと頬を膨らませた。
「それでは恋どころか、まるで人の心を解さぬように聞こえます。たいへんに間違ったお歌です。フェリス様は、あんなに御優しい方なのに」
「……、……」
「レイ?」
ここはフェリス様推し同盟(レティシアが勝手に心で結成中)のレイにも、一緒に怒ってもらいたい。
「もっとフェリス様が可愛らしいことを謡った歌に、流行ってほしいです」
ぷんぷん! と憤慨するレティシアを、レイはぽかんと見つめている。
「ね、レイもそう想うでしょう?」
「……、レティシア様は本当にお可愛らしい、フローレンス大陸中を探しても見つけられぬような稀有な姫君です」
ん?
レイがそんなに感じ入るなんて、もしやまた何か変なことを言ってしまったのかしら?
「ディアナ宮廷の方々は、レーヴェ様に似たフェリス様を恋い慕いますが、我が主は何分、人見知りにて……それが冷たく映るようで、いつのまにか氷の王子の名が……」
「たくさんの人に想われたからって、全員にフェリス様の心は返せないわ。フェリス様は御一人しかいないもの。そんなの冷たい訳でも、氷の王子でもないと想うけど……、それに恋ならば一人の方とするものでしょう?」
よくわからないまま恋を語る幼女、我ながら無理がある。
とはいえ、モテてるからって何言われてもいい訳じゃないと想うわ。
フェリス様は冷たくないもん。
天使様みたいに優しい人だもん。
どっちかって言うと、冷たい人と言うより、お人好し過ぎて、人生損してるタイプよ。
お義母様にだって、怒らないから、やられっぱなしなのよ。
ぷんぷん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます