竜王陛下の代理人 2
「呪いの姫などというサリアの話には驚きましたが、魔法省もレーヴェ神殿もレティシア姫にはそのような影はないと太鼓判を押しておりますし、何より夫君のフェリス様も魔法には達者な御方ですから、御心配はないでしょう」
「そうだね。サリアのひどい勘違いだ。真に何事かレティシアにあれば、魔法省より、神殿より、まずフェリスが気づく」
弟は魔力の高い少年で、子供の頃から弟の周りで不思議なことがたくさんあった。
フェリスに言わせると、兄上はたくさんの加護を帯びておいでです、御自身の眼では見にくいだけです、だそうだが。
「御意。陛下。陛下とフェリス様には、竜の王家の御子として、レーヴェ竜王陛下の厚い御加護がございます」
「レーヴェ様の……」
わかっている。
『これ以上』を望むのは、きっと強欲だ。
魔力もない身で、竜王剣にも選ばれていないのに、ディアナの王になり、竜王陛下はきっとそれを見逃して下さっている。
母マグダレーナの為なのか、マリウスの為なのか、ディアナの為なのか、わからないけれど。
かよわき人の身でこれ以上を望むのは、我儘だと想う。
それでも願ってしまう。
自分にも魔力があれば。
一度でもいい。
マリウスに『ディアナの竜王陛下の代理人』としての本当の力があれば。
竜王陛下に尋ねたい。
私に怒っていらっしゃいませんか? 嘘つきな私に呆れていらっしゃいませんか? 私を嫌っていらっしゃいませんか? 私は竜王陛下から与えられた役目を果たせておりますか? と。
「まるで子供だな、余は」
偉大なあなたに愛されたいと。
レーヴェ様に赦されたい、愛されたいと願ってしまう。
これは、きっと、フェリスがいまシュヴァリエにいて、マリウスの傍にいないからだ。
フェリスが傍らにいて、そうですね、兄上、民はきっとこの陛下の施策をとても喜ぶと思います、と頷いてくれていると、いつも竜王陛下に認めてもらえたような気分になるのだが……。
「陛下、子供がいかが致しましたか?」
「いや、子供はすぐに大人になる。レティシアはやがて美しい姫となり、我が弟フェリスを支えるよき妃となろう」
「左様でございますね。フェリス様がレティシア姫と楽し気にお過ごしですので、姫の評判も上々でございます。サリアではフェリス様とレティシア姫の号外が飛ぶように売れたそうでございますよ」
「それはそれは。ならば、王室にはおかしな占いが流行っても、サリアの民にはレティシア姫は愛されているのであろう」
フェリスがお忍びでレティシア姫の愛馬を迎えに行ったと聞いている。
寡黙な我が弟がそのような振る舞いをするとは、フェリスのレティシア姫への心を感じる。
フェリスが寂しい瞳をしなくてすむように、あの姫がフェリスを守ってくれたらよいと想う……。
「陛下。フェリス様とレティシア姫はシュヴァリエで健やかにお過ごしで微笑ましいのですが、よくない知らせと致しましては、王都のリリア僧を完全には取り締まり切れていない現状が……」
「難しいな。リリアの神を信じているからと言って、おかしな振る舞いをしていない者迄、迫害する訳にも行かぬしな」
他国では、ディアナでのリリア僧の怪事に触発されて、すべてのリリア僧の国外退去を決めた国もあるという。
(どんな神を信じるかは己が決めればいい。誰か傷つけたりしなければ、オレでなくても全くかまわない)
という竜王陛下の教えのもとに育ったマリウスはそこまで踏み切れずにいた。
「少し気になる点がございます、陛下」
「何がだ?」
「イージス侯爵ご子息マクシミリアン様のところにリリア僧が頻繁に出入りしております」
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