シュヴァリエからの手紙 3
「思い起こせば、昔から可愛げのない子であった……」
唯一の庇護者の母をなくして、義母マグダレーナの愛を欲しがるようなフェリスではなかった。
もし、フェリスがマグダレーナに母の愛を求めていたなら、マグダレーナももっとあの子を可愛く想ったのだろうか……?
「王太后様? 可愛げ? この薔薇のサッシュ(匂い袋)可愛らしうございますね……?」
「よい香でございますね」
選び抜かれたのであろうシュヴァリエの薔薇の品々の贈り物の数々は、女官たちを華やがせた。
「何でもない。……サリアがどう言おうと、ディアナの王子に嫁した娘を奪える筈もない。婚姻の話を奨めておいて、ディアナの王族を何も理解しておらぬ」
マグダレーナはサリア王妃イザベラの無作法を嫌っただけで、レティシアを守った訳ではないが、結果的にフェリスの手助けをしてしまったような、何とも座り心地の悪い話だ。
「左様でございますね」
「そもそも、花嫁を交換などど、奇怪な発想なうえに、ディアナに無礼でございます」
「妾もそう思う。サリア王妃の馬鹿げた手紙は不愉快だった」
不愉快を通り越して、そもそも思慮が足りぬのであろう。
今更、フェリスの妃を実の娘の方にしたいなどと。
「サリアと言えば、サリアの王女アドリアナ様からも王太后様に御手紙が参っております」
「………? 聞いたこともない王女が、妾に何用か?」
「フェリス様と御婚姻が整う頃に、レティシア姫のことを調べさせた際に、随分、レティシア姫を苛めているとの報告の上がっていた王女殿下ですね」
「国を跨いでまで、従妹に拘っておるのか?」
そうだ。叔父一家に嫌われて、しおしおと暮らしている青白い姫が嫁に来ると思っていた。
だからフェリスの嫁に呼んだ。
フェリスの相手など到底出来ぬような弱い娘を。
なのになんだ、あの傲然と顔を上げて、妾に文句を言い出すお転婆娘は。
「……あら……」
アドリアナの手紙に眼を通しながら、くすり、とマグダレーナの侍女は笑った。
「如何した?」
「アドリアナ王女は、フェリス様に御執心の御様子ですね。マグダレーナ王太后様の意にレティシアが添わぬときは、いつでもお声がけ頂ければ、私の心はフェリス様とディアナとともにあります、と……」
「勝手にディアナともフェリスとも共にあらなくてよろしい」
不快気にマグダレーナはサリアからの手紙を見やった。
母のイザベラもイザベラだが、娘までどうなっているのだ。
レティシアだけでもうんざりしているのに、ディアナにこれ以上、余計な姫は要らない。
「そうでございますねぇ。他国の方はちょっと、ディアナ王族の婚姻というものを理解されてないようですねぇ。花嫁を交換などと、レーヴェ様が呆れられますね」
「フェリスはあの娘を気にかけてるだけで、普段、氷のような男だと知らぬのだろうよ」
「そうでございますね。ディアナの娘ならば、フェリス様の関心を買うのは叶わぬ望みと知っておりますが」
あの娘、レティシア。
フェリスの心を動かす娘……。
「如何致します、マグダレーナ様?」
「レティシアとフェリスには、妾は何もしておらぬ、薔薇祭の品有難く、と。サリアの王女には、妾はよくわからぬが、フェリスはレティシアを愛してやまぬようだ、とでも書き送ってやれ」
「まあ、王太后様、意地がお悪い。畏まりましたわ」
「あら、マグダレーナ様はお優しいですわ、あらぬ期待は罪作りですもの」
ばかばかしい。
なんでマグダレーナがフェリスに横恋慕するサリアの娘の相手までしてやらねばならぬのだ。
レティシアごと、まとめて箒で掃き出したいくらいだ。
が、いつぞ、フェリスとレティシアに何か嫌がらせしたいときには役立つ娘かもしれぬ。
とはいえ、いまは大人しくしていなくてはならぬ。
これ以上、要らぬことをして、マリウスを怒らせてはならぬゆえ。
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