竜を従える小さな乙女
「ミゲルがサリアの叔母様や叔父様の意に逆らうことは不可能だったろうと……」
父様や母様が生きてたころの、レティシアのことを悪く言い出す前のミゲルは、大人しそうな人だった。
「イザベラとネイサン王弟殿下の縁を結んだ占い師ということで、イザベラのお気に入りなのよ」と母様が女子話してたくらいなので。
何もかもが変わり果ててしまい、ミゲルは決してレティシアの琥珀の瞳を見なくなった。
叔父様たちに頼まれて嘘をついてたなら、後ろ暗かったんだろうと……。
「悲しい事です。それを防ぐために魔導士ギルドがあるというのに……フェリス様、サリアの魔導士ギルドから、ミゲルの過ちを防げなかった件、平謝りの手紙が来ておりますよ」
マーロウ先生が何通かのお手紙を見せてくれる。
「詫びは僕じゃなくて、レティシアに。反省は地の底より深くして欲しいし、最低限、ギルド長の首は変えて欲しいな。ちゃんと仕事をして魔法に従事する者達を護れる者に」
レティシア、お茶には蜂蜜をいれよう、ぐらいのトーンで、フェリス様がマーロウ先生と話してる。
ああ、なんだか、フェリス様がちょっと黒く……。
「セフォラ。レティシアは美しいだろう?」
「フェリスさーまー」
フェリス様。フェリス様のレティシア贔屓が誰にでも通じると想ったら大きな間違いです。しかも、こんなお美しいセフォラさんに何を仰っておいでなのかと……。
「はい。フェリス様がレティシア姫に夢中でいらっしゃるとお噂をお伺いして、さぞや稀なる姫君とお逢いできる日を楽しみにしておりましたが、……慈愛、清廉、純白、……何とあたたかで、優しい光に満ちた方かと……近くにいるだけで癒されます」
セフォラは銀の瞳で、珍しそうに、愛しそうにレティシアを見ていた。どうも、その眸は顔かたちなどではなくて、レティシアの核のような何かを覗いているらしい。
「このよう美しい光にあふれる姫に偽りの名を着せ、虐げ、不等に扱うなどと、むしろサリアの王宮の様子が案じられます」
「わたしは、フェリス様のところに災いをよびませんか? わたしは、悪しきものではありませんか、セフォラ?」
いかにも余人に見えぬ者を見る人、という様子のセフォラに、おもわず尋ねてしまう。
「レティシア姫。私は、姫がおいでになる前に、王弟殿下の婚姻を占うように頼まれて、御二人の未来を占いました。出逢うべき星がようやく巡りあい、永きに渡る孤独と絶望が癒され、清らかなあたたかい光がフェリス様を満たす幸福を知りました。私が見たレティシア姫は、竜に乗る小さな乙女でした。……ディアナの聖なる竜を従える聖なる力を持つ姫が、悪しきものであるはずがありません」
……あまりにも褒めて貰いすぎて、ぜんぜん自分のことに聞こえないけど、セフォラの優しい言葉に、レティシアは金色のドラゴンの背中の心地よさを思い出した。
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