くまちゃんと一緒

「レティシア、おいで。マーロウ先生が来るよ」


「マーロウ先生が? 魔法の授業にですか?」


自室で一人、本を読もうかな、お天気いいからくまちゃんを日向ぼっこさせようかな~とくるくるしていたら、フェリスの優しい声に呼ばれて、レティシアは浮かれた。


謹慎騒ぎとか、おうち移動とかあって、レティシア、サボっているから、魔法の授業、受講したい!


「いや、授業にではないけど、レティシアがお勉強したいなら、それも頼んでみよう」


「はい。マーロウ先生がお忙しければ、レティシア向きの初級の先生でも……先生は薔薇祭に? それともフェリス様とお話に?」


兄妹弟子はルーファス様だし、マーロウ先生御本人が魔法省のとっても偉い方なので。ルーファス様は王太子だから、とっても偉い方じゃないとダメだと想うけど、レティシア、もっと見習いの先生でもよい気がする……。


「どちらだろう……。僕に御小言かも知れない……」


「フェリス様にお小言? 何故ですか?」


ことり。レティシアは、くまちゃんを腕に抱いたまま、長い金髪を揺らして首を傾げた。


「あ! もしかして、私の為にフェリス様が魔法でサリアに行かれたこと、叱られますか? では私が叱られます!」


「……、……」


フェリス様の後ろで、レイが空咳をしている。


「フェリス様、レイを休ませてあげてください。風邪をひいてるのかも」


さっき、レティシアと二人で話してたときもお腹痛そうだったし。


「……そうなのかい、レイ?」


「いえ、私は元気です。レティシア様、お優しい御言葉、ありがとうございます。レティシア様のフェリス様を想う清らかさに私はいつも胸あたたかくなります。……大丈夫です。フェリス様はお話がお上手ですから叱られたりしませんよ」


「レイ。笑いを堪えるのが苦しいなら、下がって一人でおもいきり笑ってきたほうがいいぞ。……平気だよ、レティシア。サリアに行ったくらいで叱られたりしないから、何も気にしないで。僕達の婚姻前に、御親戚には妙なことを言ってこないでもらたい、とちょっとご挨拶しただけだからね」


「うう……いたみ、いります……ご迷惑を、フェリス様……」


ううう、くまちゃんを抱っこしたまま、レティシアは恐縮する。


うちの親族、花嫁やっぱり交換しようとか言い出す変な親族で、フェリス様、ごめんなさいなの……。


「謝らないで。そもそもシュヴァリエにいるのも、僕が義母上に謎の嫌疑をかけられたからで、そんな困った婚約者に、レティシアは文句も言わずについて来てくれてるじゃない?」


「それはマグダレーナ様がちょっとおかし……いえ、ちょっと勘違いされただけで、うちのフェリス様は何も! まったく! 悪くないので!」


力を込めてレティシアは言った。


「それと同じように、災いがどうのと勝手におかしな噂をたてられただけで、レティシアは何も全く悪くないよ。……僕達は本当に似た者同士だね。さあ御手をどうぞ、お姫様。マーロウ先生とね、レティシアに逢わせたい者が来るから」


「……はい、フェリス様。あ、あの、くまちゃんを日当たりのいい窓辺に……」


「では、レイ、レティシアの友人のくまちゃんを頼む。そのあいだに笑いの発作収めておいで」


マーロウ先生にお逢いするんだから、くまちゃん、お部屋においていかなきゃ!


フェリス様の花嫁がとっても子供っぽいと思われてはいけないわ!(とっても子供だけど)


恭しくレイが受け取ってくれたので、レティシアはくまちゃんをレイに任せて、フェリスの手をとった。

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