姫君と随身

「レイ、私、おっきくなりたいとかお願いして……フェリス様を困らせましたか?」


母上様父上様の形見の御品や、レティシア様の大切なもの、サリアからレティシア様に届いてない品々をこちらにご記入ください、サリアの仕分け担当者は少しならずうっかり者のようですから、こちらから順次びしびし私が請求かけて参ります、とレイが用紙を持ってきてくれた。


フェリス様の紋章の入ったこの紙が、レティシアの宝物たちを奪還してくれるんだろうか。


それはみんな他愛もない品だけれど、レティシアにとっては忘れがたい品ばかりだ。


レイは同僚だったらとっても頼りになると想う、とレティシアはレイを見上げ、尋ねてみる。


「いいえ、レティシア様。フェリス様は少しも困ってらっしゃいません。むしろ、レティシア様からの初めてのお願いを喜んでいらっしゃるかと」


「ほんとう?」


「はい。レティシア様。私は正直者すぎて主のフェリス様に嫌がられるような随身です。嘘は申しません。」


「……レイといるとフェリス様は可愛いの。弟みたいで」


レティシアは、ふふっと微笑った。


「畏れ多いことです」


「昨夜ね、サリアで、叔父様や叔母様がフェリス様を何故か凄く怖がってて……失礼だったの」


「……、……」


何故かレイが笑いを堪えてる模様? 


何故なの、レイ。


ここは一緒にフェリス様担当チームとして、叔父様や叔母様に怒ってくれるところよ。


「まことに怖ろしかったのかも知れません、うちのフェリス様が」


「そんなことないわ、いつもの優しいフェリス様だったわ。フェリス様がね、私に御力を貸して下さって、枯れてしまってた母様の庭の薔薇が咲いたのよ、レイ」


「昨夜のサリアは嵐とお伺いしましたが……」


「母様の庭はね、やんでたの。神殿とね居酒屋さんにいったんだけど、そちらは嵐ひどくなかったの。王宮……、叔父様と叔母様の部屋が何だか落雷で……レイ? どうしたの? おなかいたいの? お薬持ってきてもらう?」


「いえ。何でもございません、レティシア様。レティシア様とフェリス様が嵐で難儀しなくてようございました」


「うん。私達はね、ほとんど濡れなかったの。やっぱり水の神レーヴェ様の一族のフェリス様には、嵐と言えども優しいのかしら?」


「雨も雷も嵐も、このさきずっとレティシア様にも優しいと思いますよ。レティシア様もレーヴェ様の娘におなりですから」


レイの声が、とても優しい。


「そんな、なんだかもったいない。ああでも今日のブルーベリーマフィンほんとに美味しかったから、竜王陛下にもお供えしたかったー」


「……? 美味しいとレーヴェ様にお供えしたくなるのですか?」


「うん、日本ではね、美味しいものを御先祖にお供え……じゃなかったっ! そうなの。私、美味しいって思うと竜王陛下にも食べてもらいたくなるの」


ぶんぶん、と首を振る。


いけない、フェリス様に前世のお話ししたからって、レイにまでそんな話しちゃダメ。


せっかくレイが『フェリス様の可愛い花嫁のレティシア様』と思ってくれてるのに、またしても『不気味なレティシア姫』になっては一大事。


「きっと竜王陛下もお喜びですね、可愛いレティシア様からの御心を」


そうかなあ。そうだといいなあ。


サリアの女神様のところで生まれたレティシアだけど、フェリス様と一緒に暮らしてると、毎日、竜王陛下も好きになりますよー、竜王陛下! 


ブルーベリーのマフィン召し上がって下さいね!

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