レティシアの希望を叶えたい

「まあでも、おっきくなりたいとか我儘言えるようになったんだから、レティシアもフェリスに馴染んでというか、懐いて……」


「我儘ではありません。レティシアの初めての希望です。レーヴェ、我儘とか悪女とかまた余計なことを言ったら許しませんよ。レティシアが本気にしますから」


「竜王陛下なのに、孫に発言の自由を禁じられてる……」


「竜王陛下ではありません。レティシアのお友達の我が家の優しい精霊さんです。余計なことを言うと、追い出しますよ、精霊さん」


「フェリスが冷たい。いつもフェリスが悪い事しても、オレ、濡れ衣着てやってるのに……サリアに嵐とか起こしても、オレの仕業にされてやってるのに……」


「それは僕が企んでる訳ではなくて、一般の方が誤解されてるので……レーヴェ、嘘泣きやめてください」


 しくしくと泣き真似するレーヴェを、フェリスは見ないようにする。


「なんで、結婚式のとき、大きくなりたいんだろうな、レティシア?」


「僕とちょうどいい背丈でダンスを踊りたいと言ってましたが、僕の妃として挨拶するのに気を遣ってるのではないかと……それにしても、結婚式てどうしてあんなに御客を呼ぶんでしょう、レーヴェ?」


 式だからある程度の来客は当然だとは想うが、リストを見てると、陛下の結婚式でもあるまいし、何故、こんな大袈裟な式に……? とフェリスは首を傾げまくっている。


「そりゃ祝い事だし? フェリス、オレに似て美男で絵になるし?」


「冗談はどうでもいいんですが……」


「マリウスから許可でるかな? レティシアの希望」


「通してあげたいな、と想っています。……僕には想像もつきませんが、僕にも周囲にも気を遣ってくれてるのだと想うのですが、やはり女の子としては、年頃の娘らしい姿で結婚式をあげてみたいというレティシアの夢もあるかも知れませんし……」


「……、……!」


「何故かたまってるのですか、レーヴェ? 僕は何かおかしなことを言いましたか?」


「うちのフェリスが! 女の子の! 気持ちを考えてる! これぞ晴天の霹靂!」


「……? 女の子の気持ちというか、僕はレティシアが来てからずっとレティシアのことを考えてますよ。……いまひとつ、僕の貧しい想像力では及ばないことも多々ですが……」


「レティシア、なんかズレてるからな。オレをオシトモ扱いしてフェリスの話をずっとしてるし。自分がフェリスの運命の乙女なのに、フェリス様の運命の乙女が現れたら、レティシアは速やかに身を引いて、フェリス様をお幸せにしたいのです! とか言ってるし」


「譲られたくない僕の気持ちも理解して欲しいのですが、何と言っても、レティシアはまだとても小さいので。……それこそ僕とレティシアの背丈がちょうどよくなる頃に、お互いの気持ちがちょうどよくなるといいなあ、と想ってます」


「何とも気の長い恋だな、王弟殿下」


「さほどのことはありません、レーヴェの息子ですから」


 千年ももう触れられない妃に恋をしてるレーヴェを思えば、レティシアの成長を待つ十年は少しも長くない。


 大切に想っている存在と、ずっと一緒にいられる。そんな慣れない幸福に戸惑っている。


「ま、オレの息子なら、好きな子の言いなりなのはしょうがないな」


「……ところで、何、食べてるんですか、レーヴェ?」


「フェリスんとこの朝食のマフィン。美味しいー竜王陛下にもお供えしたいーてレティシアが言ってたから、味見中。うまいな、これ」


不思議がる子孫に、ふかふかのブルーベリーマフィンを齧りつつ、レーヴェは答えた。

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