初恋の姫君は、鈍感(フェリス編)

我儘なお願いをしてしまった。


言ってみたものの、いや無理だよね、そんなの、と想ってたら、フェリス様、レティシアの望みを叶えるって……、フェリス様、やはりレティシアに甘過ぎなのでは、と想いつつ、ダイニングルームまでの道のり、レティシアは嬉しい気持ちでフェリス様の手を握りしめてた。


フェリス様の手は、どちらかというとあんまり体温高くない。


でも、ちゃんと、あったかい。


手を繋いで歩いていると、なんとなく、レティシアは、この神様みたいに美しい人はちゃんと人なのだと、嬉しくなってくる。


あと、単純に、母様と父様が天へ昇られてから、レティシアに触れられる人はいなくなってしまったので、新しい家族と手を繋げることが嬉しい。


恋人繋ぎとか、婚約者のエスコートというには、体格差ありすぎだけど……、二人で一緒に歩くとき、ちいさなレティシアの歩調にあわせて、ゆっくり歩いてくれる。


ちいさな身体の不自由さを感じることは、やっぱり時々ならずあるけれど、これは日本で生まれた春乃雪ではなくて、この世界で生まれたレティシアの人生だから、前世の知識があるから、と駆け足で生きるのではなくて、レティシアのこの世に生まれて僅わずか五年目の人生をちゃんと生きたい。


「レティシアのいた日本では結婚式はどんな風だったの?」


あ、フェリス様の日本の発音がだんだん正確に!


「んーと、結婚式は一生一度の晴れ舞台ですので、女子は入念に準備します! ……私は結婚式を経験してないので、聞いたお話になりますが……」


「結婚式の経験がない? 何か国の事情で、式をしなかったの?」


さすが生まれも育ちも王子のフェリス様。


発想が違う。


雪の結婚式と、国家はまったくぜんぜん関係ないんですよ……。


「いえ、ただ私がモテなくて、結婚する御相手がいなかっただけで……」


「もて、ない?」


私がモテない話なのに、美しく首を傾げるフェリス様が可愛すぎて困るの。


「あ! そうですね、この世界風に言うなら、パーティでダンスに誘って頂けない人気のない令嬢というか……日本にはあまりパーティはありませんでしたが」


いや、日本にもたくさんパーティあったのかも知れないが、雪とは縁がなかったというか……。


「前世のレティシアは未婚だったの?」


「はい。未婚というか、わたし、恋人もいなかったので……」


「レティシア、僕はわるい人間になってしまった」


「……? なってません、フェリス様。今、そんな気配ないです」


? 今朝はそんな黒いかんじないよー、フェリス様。


「だが、レティシアを異界から探しに来る前世の恋人はいないと聞いて、僕は心で喜んでいる。……嫉妬深い、悪い婚約者ではないだろうか?」


そうなの? 


フェリス様と嫉妬って言葉が似合わなすぎて、なんかよくわかんないけど? 


「……? 私にそんな恋愛ものの乙女の設定はまったくないです、フェリス様。ぜんぜんまったく御心配なく! フェリス様はとってもいい婚約者です!」


フェリス様の反省の基準が謎過ぎるけど、大丈夫です! と繋いでる手を、ぎゅーっと握って励ましておいた!

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