陛下と王弟殿下と随身とでは

「伝わりますか?」


フェリス様と海に遊びに行った時に、フェリス様が変化の術をかけてくれたんだけど。


あんな風に大きくなれるなら、御式のあいだだけ大きくなったりもいいんじゃないかしら?


とちょっと浅はかなこと想ったの。


最近、レティシアね、浅はかな悪女だから。


でもやっぱり、いろいろ用意してもらってるから、私の為の婚礼のドレスや靴も纏わないと作った人泣けちゃうし、長い式典のあいだ、ずっとじゃなくていいんだけど、ちょっとのあいだだけでも大きくして貰ったらどうかしら、と。


一瞬でも、視覚が人に与える効果って大きいから。


「ちょっと、あやしいけど……」


額をあわせて、にらめっこしてたら、フェリス様が微笑ってる。


「疑心暗鬼を生ず、です、フェリス様。うたがっちゃだめー」


「あやしいけど、僕はレティシアのお願いに逆らえないよ。……それに、それこそ、女子としては花嫁姿にいろいろ夢があってもおかしくない。……十年後も、レティシアが僕に愛想をつかしてなければ、そのときにもまたウェディングドレスは作ってあげるけど、いまのことはいまだものね……」


「はい。私も長生きしておばあちゃんになれることを希望してますが、人生はわからないので!」


今度こそ長生きしたい! おばあちゃんとかなりたい! だけどそんなのわかんない。


どっちかというと、前世の日本の庶民の雪よりは、いまの世界のレティシアの立ち位置のほうが、危険度が高い気もするし……。


「でも国として失礼になるようなら」


「そんなことはないよ。花嫁をまったく見せない国もあるよ。仕来りや風習にもよるからね。僕もレイとシャナの王子の結婚式に参列したけど、花嫁はずっと緋色のヴェールを被っていて、御顔は見せなかったよ」


「いろいろと戒律の厳しい御国だと、参列する側も緊張致しますね。ディアナはそれほど厳しい国ではないので……」


「そもそも冷飯ぐらいの王弟の結婚式なんて、家族と国の中の者に祝って貰えば、僕はいいと思うんだが……もっと言ったら、シュヴァリエでレティシアと二人で皆に祝って貰えば僕はそれで……」


それは楽しそうなうえに、なんか緊張しなそうでいいなー。


「フェリス様、お気持ちはお察ししますが、フェリス様の結婚式に命運をかけてるディアナ王都の商人達が泣きます。フェリス様の婚礼に招かれなかったと知己の方々も嘆かれます」


「ああ、わかってるよ。あのね、レティシア、僕はともかくとして、ディアナ人はお祭り大好きだからね、僕達の婚姻で稼いだり、飲み明かそうと想ってるだけなのだから、レティシアも何も遠慮しなくていいよ。レティシアが妖精みたいに大きくなったり小さくなったりしたら、きっとみんなはしゃぐよ」


「……本当ですか?」


「うん。こうするんだよね。レティシアとの約束は?」


小指を絡めて、フェリス様が言った。


ああっ、レティシアが教えた指切り(サリア式でなく日本式)!


覚えて下さってるーっ!


「我儘いってごめんなさい! ……何を馬鹿なって陛下に怒られたら、すぐに却下で!」


フェリス様と指切りしつつ、レティシアは零れ落ちそうな琥珀の瞳で念を押した。


「レティシアに我儘言って貰えて嬉しいよ。それに兄上は怒らないと……何と言っても結婚していらっしゃるんだから、僕やレイよりはずっと婚姻や女人への心構えを知ってらっしゃるんじゃないか?」


「拘りますね、フェリス様。私がいかに細心の心遣いで令嬢方の恨みを買わぬように、フェリス様の静かなお暮しを御守りしてるか教えて差し上げたいですよ」


あんまりフェリス様が叔父様たちにお化けみたいに怖がられたから、ぐいぐいとレイにやり込められている可愛いらしいフェリス様に、レティシアはとても安心した。

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