私の優しい瑞獣
「サイファ!」
病み上がりのサイファが気になるから厩舎に行ってきてもいい?
と許可を貰って、レティシアはサイファの処へ来た。
サイファはフェリス様のところの馬とちゃんと馴染めてるかな~。
ちょっと我儘気味の子だから心配で……。
「ヒーン」
サイファは優雅に尻尾を振って、レティシアを迎えた。どうやら御機嫌なようだ。
「おはよ。サイファ。よく眠れた?」
「ヒヒン」
「シルク、サイファ、我儘言ってない?」
フェリス様の愛馬シルクに聞いてみる。
「ヒーン」
「大丈夫?」
問題ないよ、と言いたげにシルクはレティシアに鼻を寄せて来てくれた。優しい瞳のシルク。
「くすぐったいー」
二匹に寄って来られてレティシアはのどかな苦情を言う。
「サイファ、昨夜、サリアに行って来たの」
サリアという言葉を聞いて、サイファはちょっと嫌そうな顔をした。悪いことがなかったか、と確認するように、レティシアを嗅いでいる。
「大丈夫だよ。フェリス様と一緒だったから、怖くなかったよ。ミゲルがね、レティシアは呪いの姫だからフェリス様の花嫁はアドリアナのほうがいいって占ってね……」
「ヒヒーン!」
「待って待って。二人とも。もう大丈夫なの」
サイファが怒気を露にする。シルクもサイファの怒りに共鳴している。
「花嫁交換て話が来たけど、フェリス様がそんなことありえないって、レティシアは呪いの姫じゃないって怒ってくれたから……ミゲルね、叔父様達に言われて悪い占いしてたんだって。……ちょっと私も疑ってたけど、本当にそうだったんだな……て」
「ヒヒーン!」
あいつ蹴っ飛ばしてやりたい! と言いたげにサイファが土を蹴っている。
「私、もう不吉な呪いの姫じゃないんだよ、てサイファに聞いて貰おうと……」
「ヒヒン!」
そんなこと初めからわかりきってたことだよ! と言いたげにサイファが豊かな尻尾を揺らす。
「……やっぱり嬉しい、サイファ、シルク。そんなことない! て想っても、自分でもそうかも、てずっと想ってたから……」
わたし、もう、怖がらなくていいのかな?
わたしといたら、悪いことが起きないか、病気になったり事故にあったりしないのかって。
レティシアがいるからといって、誰も不運にも病魔にも魅入られたりしないと……。
「ううー、嬉しくて、涙が……せっかく、ハンナ、綺麗にしてくれたのに」
いまもすべての不安がなくなった訳ではないけど、それでも『いままでの不吉な姫や呪いの姫の占いは、嘘だった』と聞けたのは嬉しい。
「そんでね、サイファ、シルク、サイファとフェリス様と私のね、絵を誰かが上手に描いてくれててね、みんなが、姫様、フェリス様と幸せになって、て言ってくれてね……うわーん!」
レティシアは、ディアナに来てから泣き虫になった。
サリアで一人だった時は泣けなかった。
泣いてたら、アドリアナやアレクに嘲笑される。
しっかりしなければ。
父様と母様の娘として、何を言われようとも、毅然と頭を上げていなければ、と一人誓っていた。
「私の結婚がサリアの為になりますように、と祈ったわたしの言葉を、サリアの民は覚えててくれたの。サリアのことばかり気にしないで、遠いディアナで一人で大変なんだから、まず姫様が幸せになって、て言ってくれたの」
僕の幸福を呼ぶ姫、てフェリス様は言うけど、どっちかっていうと、フェリス様が幸福を呼ぶ竜なのでは……。私ずっと幸せなんだけど、フェリス様に逢ってから……。
(この邪な竜め!)
(じゃかましい。オレは瑞獣だ! てめーの不見識をこそ恥じろ!)
と戦うディアナの可愛い絵本の微笑ましい竜王陛下を思い出してしまった。
「サイファ、シルク、きっと、フェリス様が私の瑞獣だね……」
シルクは誇らしげに聞いているが、僕がレティシアの瑞獣でいたい、とサイファが不満そうだ。
「レティシア? サイファたちといるの?」
優しい声が、レティシアの名を呼んだ。
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