シュヴァリエの祝福を呼ぶ姫

「レティシア様、フェリス様とともにサリアに行かれて、サリアの占い師のことは御心晴れましたか?」


「うん。うんじゃないけど……、はい」


ミゲルは、叔父様や叔母様に頼まれただけで、今回の占いに限らず、最初からレティシアに不吉な影などなかったのだ、申し訳なかった、と詫びていた、とフェリス様が仰った。


鏡の前に座って、ハンナに髪を梳かして貰う。


「よろしうございました。憂いが晴れられたせいか、今朝はレティシア様のお肌も髪も輝くようですわ」


「それはね……フェリス様とかサリアの人とかの……それからハンナの……フェリス様のおうちの、ディアナのみんなのおかげ。あと、竜王陛下と金色のドラゴンさんの」


「私共の? いえ、私は何も……」


「フェリス様のおうちのみんなが優しくしてくれるから、レティシアは変じゃない、悪くない、祝福とともにある姫だ、てフェリス様の言葉を信じられるの。……私、凄く気の弱いほうでもないと想うんだけど、さすがに、サリアで周り中から、不吉な姫だ、呪われた姫だ、て言われてたときは、そんなことない! て強く想えなくなってた」


まるで何かの呪いのようだと想う。


いまも、大好きな推しのフェリス様に不運を授けるくらいなら何処かに消えてなくなりたい、て想う。


「何と言う事でしょう。こんなお小さいレティシア様がそんな辛い想いを。聞いただけでも胸が破れる想いです。やはりその占い師は、縛り首か火刑に……!」


ハンナは大人しいけど、常に物静かな過激派な気が……。


「ううん。占い師がやりたくてやってたことではないから。それにね、その時も、傍に信じてくれる人がいらしたら、きっともっと強くいられたと想うの。ちょっと人材を奪われてたの」


僕のレティシア。僕のレティシアは祝福を呼ぶ姫だよ。


フェリス様があの甘い声でそう繰り返すと、なんだか祝福を呼ぶ姫になれそうな気がするから不思議。


さすがディアナの上級の魔法使いの声だわ。


ちびの婚約者のレティシアにも、魔法の呪文かけちゃうの。


誰かが……しかも大好きな人が、信じてくれるって偉大だ。


その信頼が、レティシアを支える、強い力になる。


それこそ底知れぬ魔力のように。


「詳しくはわかりませぬが、フェリス様が、レティシア姫は、もしかしてサリアで辛い想いをしているかも知れない、だから花嫁というには少し早すぎる歳だけどこちらへ迎えたい、と。私共にも、姫がこちらの暮らしに慣れるまで力になってあげて欲しい、と仰っておいででした」


「フェリス様が……?」


美貌の婚約者様は、逢う前からレティシアを気遣って下さってた。


なのにレティシアときたら、フェリス様を絶海の孤島の吸血鬼みたいな怖い想像してた……ううう、反省……。


それにしても、こんなに優しいフェリス様を、お化けみたいに怖がった叔父様は何だったの。


ミゲルを操ってレティシアを苛め倒してた後ろ暗いところがあるからって、幾ら何でも怖がり過ぎだと想うのっ。あれが威厳あるサリア王たるものの態度なの?


サリアには行けてよかったけど(竜王陛下、金色のドラゴンさん、精霊さん、フェリス様の処にレティシアを飛ばしてくれてありがとう!)、それだけはどうにも不満だわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る