幸せな姫君の朝は、婚約者と手を繋いで
「ハンナ! ごめんなさい、心配させて!」
フェリスと手を繋いで自室に戻り、ハンナの姿を見つけて、レティシアは詫びる。
「いいえ、レティシア様。フェリス様とご一緒だったのに、勝手に騒いでしまって申し訳ありません」
でも、誰かに心配して貰えるの、嬉しいよ。
サリアで最後のほうのレティシアは放置気味の姫になってたので、普通の姫なら当然の傍に仕えてくれる侍女たちの優しさが身に染みるのだ。
「レティシアじゃなくて僕が悪い。すまなかったね、ハンナ」
「とんでもありません、フェリス様。朝から、仲の良い御二人の御姿を目に出来て、侍女冥利に尽きます。ちゃんとサキ様から、レティシア様の夜のお夜食隊のお手伝いをするよう、申し送りを受けておりますのに……」
サキー。そんなことまで申し送りしなくていいのー。
「昨夜のはね、レティシアが自分で移動したんじゃなくて、レ……いやそのうちの精霊がおせっかいをね……」
「ベッドで眠ってたらね、いつのまにかフェリス様とサリアにいたの! 驚いたわ、ハンナ」
「まあ、サリアに。遠くに行かれてたのですね。ではお疲れになられたでしょう?」
うーん。さすが魔法の国の人だわ。ベットで眠ってたと想ったら、フェリス様とサリアに行って来たわ、で通じちゃうのが。
「ううん? フェリス様と一緒だったせいか疲れてないの。元気なの」
またフェリス様から竜気貰っちゃったのかしら?
「嫌な事もあったけど、楽しいこともあったしね」
「はい!」
フェリス様の言葉に、嬉しくお返事する。
「まあ楽しい事が?」
「サリアの民人がとてもレティシアを愛してくれていてね。そうだレイ、サリアの酒場に礼の品を送って、レティシアの号外を貰えないか尋ねて欲しい」
「畏まりました。手配致しましょう」
「あ、レイ、サリアのレーヴェ神殿の方がフェリス様の絵が欲しいって……」
「フェリス様のですか?」
「サリアの民がね、とてもフェリス様を好きになってくれてて……」
「僕じゃなくて、僕とレティシアの絵をね。レティシアを可愛く描いてくれる画家を探しておくれ、レイ」
「それはそれは。サリアの方にご満足いただけるような画家をお探しせねば」
レティシアは皆と話しながら、幸せに顔が綻んでくる。
嬉しい。
生まれた国の人がフェリス様を好きになってくれた。
同担爆誕! 嬉しい!
ちいさなレティシアの結婚を心配して、レティシアの幸せを願ってくれてる。
フェリス様がいい人でよかったと喜んでくれてる。
サリアの誰にも祝われてないと想ってたレティシアとフェリス様の婚姻が祝われている。
相変わらずアドリアナが怖かったことも、アレクが嫌な奴だったことも、叔父様や叔母様がフェリス様に怯え過ぎて失礼だったこともおいておけるくらい、幸せ。
「そう、きっとサリアの人は、僕がね、怖ろしい竜レーヴェの末裔として、レティシアを食べるんじゃないかと心配してたんだろうと……」
「フェリス様ったら。竜王陛下拗ねますよ。優しい竜王陛下似の優しいフェリス様に、サリアの民は恋に堕ちたんですー!」
人を勝手に怖ろしい竜にすんじゃねぇよ、ま、サリアのレーヴェ神殿のお供えの山に免じて許してやるけどな、と竜王陛下は苦笑していた。
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