サリアの災いを呼ぶ姫 52

「フェリス様」


さっきまで金色のドラゴンさんの背中にいたのに、何故か突然フェリス様の腕の中に!? と想ったら、顔色の悪いイザベラ叔母様もいて、場所は、シュヴァリエでなくサリアだった。


レティシアはフェリスの腕に抱き上げられたまま(フェリスが降ろしてくれないので)、サリア王宮の回廊を歩いているけれど、雨が凄く降っていて、雷の音が凄い。


サリアでこんなひどい春の嵐、レティシアは経験したことがない。


「春のサリアにこんなにひどい嵐なんて……どうして……、農村部の方がお困りでは……」


秋によく嵐が来て、父様や母様が農村部のことを心配して、嵐から村を護ろうと魔法使いを呼んでいた。サリアに暮らすレティシアにとっては、魔法使いはそういう大きな災害などの為に働く人だった。


「大丈夫だよ。この雨、王都、王宮周辺にしか降ってないから」


「そうなのですか? よかった」


さすがフェリス様。水を司るレーヴェ様の直系。

雨が何処に降ってるかまでわかるなんて。


「フェリス様。叔母様と何を話されたのですか? 」


イザベラが、レティシアの災いの話は間違いだった、花嫁交換の話は白紙に、とディアナへの手紙を書いてくれるというので、レティシアは驚いた。


そして、フェリスが、せっかくだから、サリア王宮を少し歩こうか? というので、イザベラの居室を後にした。


イザベラ叔母様が、借りて来た猫のように大人しく、フェリス様の言葉に従ってたんだけど……。


一体何が……。


「僕の妃への詫び状はまだですか? てちょっとお尋ねを」


「フェリス様……?」


本当かしら? 

いえ、フェリス様を疑う訳じゃないけど、叔母様が低姿勢すぎて、不気味……。


「占い師のミゲルがね、レティシア」


「はい?」


「レティシア姫は私をお怨みでしょうね、て僕に尋ねるから、僕のレティシアは王妃様の占い師を怨んだりしてないよ、て言ったら、涙を零していたよ」


「それは……、ディアナのように魔法の権威が強い国ではないので、サリアでは占術師の立場はそんなに強くなく……、何よりも、私が、姫として、皆の信頼にたる姫であれば、彼の占いや、宮廷の悪しき噂を退けられた筈です。ミゲルの占いの罪ではなく、宮廷人の噂の罪でなく、私の不徳です」


不気味だとか、呪われてるとか、死を呼ぶとか、信じてもらえなかったのは、しょうがない。


レティシア自身ですら、二度も家族を死から守れなかった不吉な娘だ、と我が身を疎んじた。


誰のことも恨んでない。


ただ、父母を奪われた哀しみのあまり、いかなる気力も湧かなかった。


自分の為に、何も頑張りたいと想えなかった。


不思議な、美しい寂しい瞳をした、この人に逢う迄は。


「レティシア、世界で一番可愛らしい姫はね」


「はい?」


「そんなに立派でなくていいんだよ。ミゲルも叔母様も大嫌い!  悪者を退治して! て僕に命じてくれれば」


「フェリス様に?」


「そう。僕はレティシアの魔法使いとして役に立たないと、ちびっこ達に席を狙われているからね」


「フェリス様は私に甘過ぎです、私が世界で一番可愛い訳がな……」


世界で一番可愛い私の姫。私の大事なレティシア。

……ここで、この王妃の庭で、母がそう言っていた。


「……薔薇が?」


どうしてこんなに薔薇が枯れてるんだろう? いまは盛りのはずなのに?

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