サリアの災いを呼ぶ姫 48

「レティシア、楽しい?」


レティシアを乗せてくれているドラゴンが問いかける。


「たのしいー!  地上があんなに下ー!」


碧い空をどんどん駆け上がると、嫌なことが地上にぽろぽろ落ちていくような気がする。


「怖くない?」


「怖くない! ドラゴンさんと一緒だから!」


風が凄いけど、気持ちいい。


「お城で何かいやなことあったの? フェリスがレティシアを苛めたの?」


「どうして? フェリス様は、ずっと優しいわ。あんまり優しすぎて、落ち着かないくらい……」


お父様とお母様が生きてた頃は、みんな、レティシアに優しかったけれど。


お父様とお母様が亡くなってからは、レティシアに優しい人たちはみんな遠ざけられてしまったので。


優しくしてくれる人は周りにはいなくなって、気味が悪い姫とか、不吉な姫だとか、あの姫はおかしいとか言われることが増えた。


レティシアはますます本の中に逃げ込んだけど、幸せだった頃みたいには、本の中の世界にもうまく入れなくなってしまった。


「ねぇ、ドラゴンさん、約束して?」


「何を?」


「私がフェリス様やディアナに災いなしそうだったら、お空に連れ去って。フェリス様に迷惑かけたくないから、呪われた姫を、もう地上にはおかないで」


「……レティシアは災いなんか呼ばないし、そんなのフェリスは許さないよ」


「フェリス様、怒るかな?」


「怒るっていうか……寂しがるんじゃない? レティシアが黙っていなくなったら」


レティシアがいなくなったら、フェリス様は寂しい?


「だって、レティシア、よわっちいフェリスのこと、あのばーちゃんから守ってあげるんだろ?」


「ばーちゃん」


まだ、そんなにばーちゃんじゃないよ、王太后様。

困るくらい元気そうよ。


「……うん。フェリス様のこと、守ってあげるって約束したの」


守ってあげたかったの。

いろんなこと、なんでも出来るのに、寂しそうな瞳のあの王子様を。


どんな御本の王子様とも違う、引き籠り希望のうちの婚約者様を。


「えええ。なんで、泣くのーレティシアー」


「わかんない、なんか泣けてきた」


フェリス様のこと考えてたら、なんか泣けてきて、ドラゴンさんをびっくりさせてしまった。


「フェリス様のこと、守ってあげたいのに、災い、いやなの」


「ないないない。そもそもレティシアが災いの姫なら、フェリスの竜気はうまく入らないでしょ、レティシアのなかに」


「フェリス様の竜気……?」


「うん。レティシアに分けてたでしょ。レティシアに悪いものがついてたら、そんなの入れようとしても、反発するから」


「……そうなの?」


「うん。フェリスと一緒にいてしんどくない?」


「……うん。フェリス様といると、元気になるよ」


「それはレティシアが穢れてないからだよ。強い竜の気を受けとめるには、いろいろ混ざりものが入ってると無理だ。……僕にも乗れない」


「……ドラゴンさん」


「レティシアはフェリスを強くしてるよ。レティシアにあって、フェリスは孤独じゃなくなった」


「……フェリス様に逢えて、孤独じゃなくなったのは私のほうだよ」


ぎゅっと、レティシアはドラゴンの背にしがみついた。


ずっと寂しかった。ずっと凍えて冷たかった身体が、フェリス様の処に来てから暖かくなった。


「ずーっと幸せ過ぎて、夢みたいで……こんなの夢だって言われても、そりゃそうですよね……て」


「夢じゃないから。みんなレティシアが大好きだから、レティシアは、ディアナにいなきゃダメだよ」


「う……、え………」


「え、レティシア、泣かないで…」


背中で、わんわん子供のように(子供なのだが)声をあげて泣いてしまい、レティシアは飛翔するドラゴンを青空の上で困らせていた。


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