第348話 サリアの災いを呼ぶ姫 45

雷は、ミゲルの使っている占いの水盤を直撃した。


「……ひ、ぃ……!」


雷に打たれたミゲルは床に倒れた。


ついに罰があたったのだ。


イザベラ様の望む占いをし続けた罰が。

罪もないレティシア姫に呪いの汚名を着せた罰が。


サリアの女神は、真実を汚すミゲルに怒っておられるのだ。


いや、サリアの女神ではなく、皆のいうように、レティシア姫を気に入られたレーヴェ神がお怒りなのか……?


「おまえが」


灯りの消えた暗闇に、氷のような声がした。


「僕の愛しい姫に、汚名を着せた詐欺師か?」


「…な、………」


「謝罪の手紙が届かない」


「……ひぃ……!」


「神殿と魔法省の声明に従うなら、手を出すまいかと思っていたけど、詫びるつもりはないのか? 虚偽の占いで、僕の妃を侮辱するのだから、もちろん命と名誉の全てをかけるつもりなんだろう? サリアの王妃の偽占い師として、歴史に名を残したいのか?」


「……フェリス、お、王弟殿下……」


震えながら、ミゲルは名を呼んだ。イザベラ妃が一目で気に入った麗しのディアナの王子。


レティシア姫の婚約者にして、あらたな守護者。


暗闇のなかでも、確かに、怖ろしいほどに美しい。


いやでも、これは……昼間、街で出回っていた、優し気な微笑の絵姿のフェリス殿下とは、別の人物に見える。レーヴェ神殿の戦うレーヴェ神によく似た……。


「お許し、お許しください、殿下、……レティシア姫の……」


「寄ってたかって、いい大人が、親を亡くした幼い娘を苛めるのは楽しかったか? 人の心を壊す事はそなたを満足させたか? 占い師と名乗る者として、嘘をつくことに心は痛まぬのか? サリアの女神に向ける顔はあるのか?」


「ひぃい……お許しを!」


天井から、何本も剣が降って来て、ミゲルの身体を床に縫い留める。


「真実を明かせ」


「イ、イザベラ様に逆らえず、レティシア姫に不当な汚名を着せました……」


「僕の姫は、ディアナに、サリアに災いをもたらすと? 僕の妃は呪われていると?」


「い、いいえ。いいえ。レティシア姫は春の息吹のような御方……災いとも呪いとも縁はなく……」


「それを書面にせよ。そちの裏切りを、サリアとディアナに知らしめよ。書けぬと言うなら、首は落として、腕だけ残して、腕に命じる」


「……書きます! 書かせて頂きます!」


レティシア姫はフェリス殿下と仲睦まじくと聞いたが、あんな小さなレティシア姫がどうやってこの怖ろしい王子と、暮らしていけるのであろう……?

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