第347話 サリアの災いを呼ぶ姫 44

「……呪われたんだわ」


稲光をみあげながら、サリア王宮で、女官が呟いた。


「馬鹿ね、罰当たりなこと言ってたら、イザベラ様にぶたれるわよ」


諫める年嵩の女官も、少々疲れている。


王妃宮の庭の薔薇だけが一瞬で枯れた理由を誰も説明できない。


「だって、レーヴェ神がレティシア姫を気に入ってるから、花嫁交換に怒ってるんだてみんな言ってるわ。レーヴェ神じゃなくても、せっかく幸せなレティシア様をまたここに呼び戻そうとするから、天上のアーサー王やソフィア王妃が怒ってもおかしくないわ」


「やめなさい、そんなこと……」


女官達は食い扶持がかかっているので、イザベラ王妃の望みに仕方なく従うが、べつに全員、王妃が正しいと思ってやっている訳ではない。


「私もともと嫌だったのよ。小さい子に意地悪するなんて。レティシア姫、何も悪いことしてなかったのに。その上、あんな幼い子を一人で嫁がせて、あげくフェリス様が聞いてた噂よりずっとよさげだから、花嫁交換なんて、王妃様どうかしてるんだわ。みんな知ってるじゃない。あのイザベラ様のお気に入りの占い師、イザベラ様が黒と言ったら白も黒って言う、ただの嘘吐きよ。あんな腰抜けに、聖なる星見の御力なんてある訳ないわ」


「それは、まあねぇ……」


「ディアナは竜と魔法の王国なんでしょう? 御自身の魔法でサリアにいらしたフェリス殿下に、レティシア姫が呪われてるなんて嘘ついたって、バレるに決まってるわ」


「そうよねぇ……サリアの王宮ではそれで通っても……」




遅いわ。今更だわ。フェリスもう怒ってるわよ。レティシアを取り上げようなんてするから。


命知らずよねぇ、フェリス、レーヴェ様より優しくないのに、と、王妃宮以外では今を盛りと咲き誇る薔薇の精霊たちが笑っている。


「落ちたわ、雷!」


「ねぇ、それこそ、あれ、占い師のミゲルのいるあたりじゃない?」


暗い空が割れる音がする。雨と風の音がやまない。しかも何故かサリア王宮ばかりに雨風がひどい。


竜神レーヴェの怒りと言われれば、確かに誰もが信じるような凄まじい嵐だ。


物凄い濡れ衣だ、と呑気にお散歩中のレーヴェは笑うしかない。

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