第345話 サリアの災いを呼ぶ姫 42
「ガレリアの? リリアはまだレーヴェに執着してるのですか?」
レティシアの話に心を痛めている様子だったサリア神は、おや、と細い眉を動かした。
「誤解を招く言い方はやめてくれ。あれは俗世の坊さんたちの悪だくみだ。リリアは関与してない」
「誤解も何も。ずっと昔から皆が知ってることではありませんか。堅物のリリアはレーヴェに御執心。けれど、氷のようなレーヴェはちっともリリアに関心がない」
「オレをフェリス扱いするな」
「御自身への執着に疎いというところは、よく似てらっしゃるのでは? 此度の花嫁交換の話も、フェリスがイザベラを魅了したからでしょう?」
「うちの坊やはレティシアの馬を迎えに行っただけだぞ」
「あの子はあなたによく似ておいでですから、よく教えてさしあげたほうがよろしいかと。その気もないのに誰かの心を奪ってはいけないと」
「そりゃ難しいわな。そもそも、うちのフェリスは自分は愛されない体質だと思ってるんだ」
「……どんな怖ろしい呪いをかけたら、レーヴェ似の王子がそんなことに?」
レーヴェに揶揄われてるのかと、サリア神はうろん気な顔をしている。
「まあ、いろいろあってな。いまレティシアがフェリスの呪いを解いてくれようとしてるところだから、勝手に交換されちゃ困る。もうレティシアはうちの娘だから、返さんぞ」
「レーヴェのもの扱いは大変不本意ですが、レティシアに関しては、フェリスのところにいるほうがずっと幸せそうですから……。レティシアは星を動かしますから、サリアがレティシアを失ったのは、サリアにとっては不幸ですが、それは人の子たちが決めたことです」
「レティシアのこと気に入ってたんだな?」
レーヴェが不思議がる。
レーヴェと違って、サリアはそんなに人の子に思い入れする神ではない。
「レティシアはいつも私に感謝の祈りを捧げてくれていました。優しい父様と母様といられて嬉しいです、神様のおかげです、と。その幸せは五年も続かなかった。……流行り病などで死にそうもないフェリスがレティシアの婿になったのは、喜ばしい事です」
「レティシアの婿の条件は何より丈夫なこと、か」
「あの子がもう別離に泣かなくてすむように、です。レーヴェがアリシアに選ばれたのも、殺しても死なないような強い男だったからでしょう?」
「なるほど。我が一族は、いまも昔も、丈夫さで愛しい姫の心を掴んでるんだな」
レーヴェは声を立てて笑った。
(ごはんはちゃんと食べなきゃダメです! )
とフェリスを叱るレティシアの声を思い出して、切ないような愛しいような心地になりながら。
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