第343話 サリアの災いを呼ぶ姫 40

サリア神殿は、サリア王都の中心の位置にある。


ディアナのように、国中の何処にでもサリア神の絵姿があふれてはいないが、サリアの女神は敬虔にサリアの人々から愛されていた。


白いフードを被った僧侶の装いの青年が、サリアの聖堂に居る。


人の姿で実体化しても、ディアナ以外の国では、わりと気楽に顔を隠すこともなく歩いてるレーヴェだが、いまここサリアでは、フェリスとレティシアの絵姿だらけで、流石にフードを被ってみた。


(オレがフェリスと間違われると顔隠してるんだから、顔に似合わず引っ込み思案のうちのフェリスもレティシアのおかげで有名になったもんだ)


それに、フェリスの力が増してる。


もともと魔力の高い少年だったのだが、このたびの婚約で守る者レティシアを手に入れて、フェリスが自分で自分にかけていたいくつもの力の封印が解けていくようだ。


何とも不思議な女の子だなあ、とレーヴェはレティシアのことを想う。


レティシアはレーヴェが竜王陛下本人だとは夢にも思わず、竜王陛下はフェリス様と似てて素敵です、などとフェリス様のことを惚気て(?)くれる。なんなんだ、オシトモって。


ディアナの人間にはまず『竜王陛下』ありきのフェリスなのだが、レティシアの世界の中心はフェリスなので、フェリスに似てるレーヴェなのだ。それが可愛らしくてくて仕方ない。


(このオレ様を天から脇役にする、末恐ろしい大物だからな、レティシアは)


あんなに真っすぐフェリスを見る娘が来るとはなあ。


まったく、望外の幸運だ。


レティシアは、異界からこちらへ渡って来た魂で、この世界の法則から少しずれている。


サリアで、レティシアが両親亡きあと迫害された原因は王位継承権が主原因だが、『レティシアは自分たちと何かが違う』と感じ取って、警戒心の強かった者達ももとからいたはずだ。それが悪い方に流れた形だ。


だが、この世の法則にうまく収まり切れてない気持ちは、フェリスの中にも子供の頃からずっとあったはずだ。だから、フェリスとレティシアが惹かれ合うのは当然とも言える。


(精霊さん、フェリス様はね、優しくて綺麗で賢くて、みんなに頼られて愛されてるのに、何だか寂しそうな瞳をしてるの……どうしてなのかなあ?)


柔らかい、あどけない、少女の声がレーヴェに尋ねる。


(いまはもう寂しくないだろ? レティシアも来てくれたし)


(そうかなー。それはちょっとまだまだだと思うけど、少しはね、そうだったらいいな。私、フェリス様が寂しい顔をしなくなるくらい、推して推して推しまくるからね! 応援してね、精霊さん!)


フェリスの家のベッドの上で、優しい精霊さんのレーヴェに訴えながら、くまのぬいぐるみを抱きかかえたレティシアは、何というか無敵の可愛らしさである。そりゃあ氷の王子のフェリスも陥落するだろうとも。


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