第341話 サリアの災いを呼ぶ姫 38
「雨が……!」
「雷がやまない……!」
「どうなってるんだ、春のサリアにこんなひどい嵐なんて、見たことも聞いたこともないぞ……!」
叩きつけるように降るひどい雨が、サリアの王都を覆っている。
「……罰があたったんだよ、王妃様が花嫁を取り換えようなんて言い出すから」
サリアの石畳に、サイファとレティシアとフェリスの絵姿が落ちている。
フェリスを見上げて、花のように笑うレティシアが雨に濡れて、破れていく。
「そうだよ。ディアナは竜の王国。守り神のレーヴェ様は水を司る竜だ。レーヴェ様はきっと、レティシア姫をお気に召してるんだよ。交換なんて言われてご立腹なんだ」
(まあオレもご立腹だけど、ここに豪雨降らしてるのは、オレじゃなくて、フェリスだけどな。イザベラがレティシアを泣かすから、うちの子孫が荒れてて、怖いわ……)
レーヴェはサリアの民の声を聴きながら、天候の荒れ狂うサリアの王都を歩いていた。
雨はレーヴェを濡らすことはなく、濡らしたところで、慕わしい水たちだ。
雷鳴が轟き、悲鳴のように風が鳴いている。大地が遠くからの怒りの波動に怯えている。
「ほんとに嫌な人だ、王妃様は。あんな小さいレティシア姫を無理やり嫁に出しといて、ちょっとフェリス殿下がしゃれた御方だと知ると、こんどは取替ようだなんて」
「そりゃあ、フェリス殿下や、ディアナの水神様じゃなくても、誰だって怒るよなー」
はあ、と男たちは、ひどい雨で足止めされたの酒場で溜息をつく。
サリア王妃イザベラが、フェリスの花嫁をレティシアからアドリアナに交換したがっている、という話は、侍女たちの口から王宮出入りの商人に、そしてあっというまに街に広まった。
サリアの民が、レティシアの相手がよき王子であった幸福を喜んだのも束の間、小さな姫には一難去ってまた一難だ。
「レティシア姫は小さいのに利発だから、フェリス殿下のお気に召したんだろ? アドリアナ様ととっかえたって、フェリス殿下の気にはいらないんじゃないか?」
「アドリアナ様はあんまり勉強も好きじゃないんだろ? 意地も悪いって、うちの隣の子が王宮の出入りの仕事してるけど言ってるぞ」
「そりゃあさあ、あんまり賢すぎて、ちょっと子供じゃないみたいだ、て怖がられたレティシア姫と比べられたらなあ……」
まあ、アドリアナ王女のことはともかく、今夜の酒場のみんなは気炎があがらない。
せっかくレティシア姫がディアナで幸せになってよかったと祝杯をあげたのに、なんでそれにケチつけるんだ、可哀想だろう、王妃様、そりゃ天気も荒れまくるってもんだ、とどんよりだ。
「そういうレティシア姫の変わったところが、竜の国の末裔のフェリス様の気に入ったんだろうになあ。はあ。なんにもわかっちゃいねえよ、王妃様は」
たった一人で嫁に行かされたレティシア姫様に、幸せでいてほしい。
(私の結婚が、サリアの役に立ちますように)
そう言っていたあの小さな姫を、花冠で飾って、幸せにしてあげたい……。
嵐に揺れる王都で、王妃様、眼が覚めたら後悔して気を変えてくれ、良心に目覚めてくれ、と皆で祈るくらいしかできないけれど……。
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