第340話 サリアの災いを呼ぶ姫 37

「僕の花嫁はレティシア以外考えられないし、オレの娘、オレの娘うるさいレーヴェも絶対にレティシアじゃなきゃ納得しないよ」


「竜王陛下?」


ときどき不思議なんだけど、フェリス様はまるで竜王陛下がそこにいるみたいに話すの。


うるさいお兄ちゃんとかお父さんとかで、すぐ隣の部屋にでもいるみたいに。


「……図書室で」


「うん?」


「竜王陛下の絵が、私に、オレの娘って言ってくれたような気がして……凄く嬉しかったです」


竜王陛下、大好きだ……。


街中にディアナの人が、竜王陛下を飾る気持ちが、いまとってもよくわかる。


負けない、気持ちになる。


(オレの娘だろ、レティシア? 何処にも行くなよ。うちの拗らせ子孫のフェリスと話があう嫁なんて、そうそう来る訳ないからな)


フェリス様にくすぐられてる耳に、竜王陛下の声が木霊する気がする。


「うちの先祖は悪戯好きで、よく、あちこちにいて」


不本意ながら、ここはレーヴェの力も借りるか、とフェリスが言いたげだ。


「気になる子に話しかけてるんだよ。それを聞き取れる人はそんなにいないけど。……レティシアは潜在魔力がとても高いから、レーヴェの声を聞きとれる。それこそ星の定めたディアナの花嫁だと想うよ」


「え? ……いえ。あれは、きっと私の幻想というか……幻聴というか」


幻想でも幻聴でも、とってもとっても嬉しかったけど。


竜王陛下の娘で、フェリス様の祝福された花嫁。


そんな幸せが、呪われた姫のおまえに来るわけない。


そう言われたら、そうね、これは夢で、レティシアはサリアの部屋で一人で眠ってるんだわ。


目覚めるのが辛いくらい、とてもとてもいい竜の国の夢だったわ、と想うわ。


「じゃあ、その幻聴は、これからもときどき聞こえるかも。今頃、オレの娘を勝手に取替んじゃねぇ、そもそも花嫁は交換するもんじゃねぇ、て怒ってるよ」


「……竜王陛下が? 私の為に?」


「うん。僕もレーヴェも、一度自分の花嫁、自分の娘と定めた子を奪われることを受け入れられない。サリアの叔母上はきっとそれを理解するよ。……可哀想な生贄の姫レティシア、僕はレティシアをサリアに返さない」


「……? 可哀想じゃないです。サリアに返されるほうが可哀想です。私、ここで、フェリス様と毎日笑って暮らしたいです」


毎日くだらないこと言って、フェリス様と笑って暮らしたい。


フェリス様のお食事を管理したい。ディアナのことをもっと知りたい。


竜王陛下に護られて、安心して暮らしたい。


もう、毎日、叔父や叔母や従妹の機嫌を伺う生活はいや。


自分の為に、仕える誰かがひどいめにあうのではないか、もしや殺されるのでは、と心配する生活はいや。何をしても、おかしな姫だ、災いを呼ぶ姫だ、と言われる生活はいや。


レティシアは、フェリス様に甘やかされて、精霊さんのいう、贅沢で我儘な悪女になったの。


もうサリアに戻って、不幸な暮らしはいや!


「うん。ここで、僕達は二人で、毎日一緒に笑って暮らそう?」


レティシアのおでこにキスをして、フェリス様がそう言ってくれた。

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