第339話 サリアの災いを呼ぶ姫 36

「僕が黒くなっちゃったら、レティシアは僕を嫌う?」


なんて綺麗な碧い瞳だろう、と想う。


なんと言っても、フェリス様の膝の上に乗せられてるので、すごくすごくフェリス様が近い。


どんなことも隠せないくらいに近い。


「嫌いにならないです。ただ、心配になります」


遠くなるの。


フェリス様の心が傷んで、黒い感じになっていくと、隣にいるのに、フェリス様が遠くなる気がするの。


身体はここにいらっしやるのに、何処か遠くへ行ってしまわれるような……。


「何処にも行っちゃ、ダメですっ……て」


「何処にも?」


「遠くにいかないで……。ここに、いて……って」


ぎゅっとレティシアはフェリスの袖を握る。


みんな、おいていくの。


みんな、レティシアをおいていくの。


昨日まで笑って隣にいたのに、嘘みたいにいなくなってしまうの……。


「何処にも行かないよ。僕はレティシアより長く生きるって約束したろう? だから……」


最初に、十二歳も年上のフェリス様に滅茶苦茶をお願いしたのに、レティシアの望みは叶えると言ってくださった。優しいうちの王子様。


王子というと、身近にいたのが、従兄のアレクだったので、随分な違いである。


アレクはいつも自分の望みが叶わないと苛々していた。


フェリス様は、レティシアに限らず、自分じゃない人の望みばかり叶えようとしている気が……。


「レティシアも、僕をおいて何処にも行かないで」


「何処にも、行きたくないです……ここに……フェリス様のそばにいたいです……」


フェリス様はレティシアの推しで。


この世界で、たった一人の友達なの。


前世の雪も友達そんなに多くなかったけど、今世のレティシアは幼くして呪われた王女になってしまって、友達いなさ加減がさらにひどく……。


そんな残念なレティシアの言葉を、フェリス様はたった一人、大笑いしながら、真面目に聞いてくれる人なの。


フェリス様は、気味が悪いとか、頭がおかしいとか、子供のくせに、とか言わないの。


(レティシアはどう思う? レティシアはどうしたい?)


ってレティシアの気持ちを聞いてくれるの。


そんな人、サリアに帰されたら、もういない。


何でもレティシアのお望みどおりだよ、と笑う父様も、レティシアは私より賢いわ、と喜んで下さる


母様も、天に行ってしまわれた。


フェリス様の花嫁にはアドリアナがなるから、と、レティシアがよその国の誰かにまた嫁がされたりしても、その新しい婚約者殿は決してレティシアの話に大笑いしたり、真面目にとりあってくれたりしないと想う……。


「うん。僕はレティシアの魔法使いで騎士だから、ね。僕に命じて? レティシアの不安要素を取り除いて、と」


「……? フェリス様に命じるなんて……。サリアの叔母様が、ディアナの魔法省とレーヴェ神殿の言葉を受け入れてくださるといいのですが……」


「そうだね。明日にはきっと、占い師の占いはひどい間違いだった、花嫁交換の話は取り下げを、の書状が来るよ。何の心配もいらない」


何の迷いもなく断言するフェリス様に、ほんの少し不思議さを感じたけど、髪を撫でてくれるフェリス様の指が心地よくて、レティシアはそうだったらいいのにな、と想った。


大丈夫。


もし、叔母様がレーヴェ神殿とディアナ魔法省の言葉に従わなくても、諦めない。


負けない。


大事な推しのフェリス様を、あんまり優しくないアドリアナになんて任せられないもん……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る