第326話 サリアの災いを呼ぶ姫 23

「魔法の家と言うのは魔法の学校のようなものですか?」


ディアナの人は、みんな優しくしてくれるけど、フェリス様が隣に居ないとちょっと寂しい。


レティシアは甘えたな悪女になってしまった。


「はい。レティシア様。ディアナで最高峰は王立魔法学院ですが、皆が皆、王都に学びに行ける訳ではない。シュヴァリエにも魔法を学べる学び舎を、とフェリス様が創立して下さって……」


「フェリス様、みんなが本を読めるようにって図書の館も建てられたんですよね」


「はい。フェリス様が五歳のときに」


うきゅー、いまのレティシアと同い年のときに!


「シュヴァリエの農家には字が読めない者も多いことにフェリス様は驚かれて……、それは不便だ。その者にとって。僕がずっとシュヴァリエの領主とも限らぬし、このさきも悪辣な領主に騙されぬように、字や魔法を学ぶ場所が必要だね、と仰って……」


「シュヴァリエの人はフェリス様が大好きだって、私の世話をしてくれるハンナが言ってました」


「その通りです、姫君。私達は私達のフェリス様が誇らしく、何者にも代えがたい方と思っております。……レティシア姫は、初めての御茶会で、王太后様から我らがフェリス様を庇って下さったとお伺いしております。我がシュヴァリエの薔薇の姫にふさわしい、とてもお若い御身で凛々しい姫です」


うわあああん、どうして、王太后様の御茶会で、王太后様に喧嘩売っちゃったのバレてるの! そういうことは内緒にしといてぇぇぇぇ。


「はしたなくて、恥ずかしいです。もっと上手に、優しくお話しできるようになりたいです」


「ディアナの王妃も王子妃も、大人しいだけの方ではいささか荷が重いかと……アリシア妃の時代から、ディアナでは芯の強い女性が好まれます」


そーかなー。レティシアのはただの考えなしだった気がするけど……何にせよ、御茶会での大失敗話を好意的に考えて貰えててよかった!


「さあ、姫、ようこそ。こちらがシュヴァリエの魔法の家になります」


「……!? 魔法の家というか、立派な学校ですね!?」


可愛らしい森の魔女の家的な建物を想像をしていたら、普通に石造りの立派な建築だった。


「はい。最初は本当に小さな家だったのですが、年々、立派になりまして……最近では、シュヴァリエ以外からも学びに来る人が増えました。フェリス様いわく、大きくなり過ぎるとやや不便だそうですが……」


「フェリス様らしいです」


こんなに立派な学校では、フェリス様の夢の最果ての森の孤独の魔導士とは程遠いわね。生徒さんがたくさんいそう……。


「カイ先生ー、だれー可愛いー」


「カイ先生、お姫様と来たー」


「カイ先生、フェリス様はー?」


学び舎の薔薇の庭園で、ずいぶん幼い子達が遊んでる。

あらら。こんなにちっちゃい子達も入れるんだ。凄い。


「これは幼稚舎の生徒達です。魔力が強すぎたり弱すぎたりすると、早くから入学した方が、本人が生きやすくなるので……。こちらはフェリス様の婚約者のレティシア姫だよ。みんな、シュヴァリエの薔薇の姫に、挨拶は?」


「ええー薔薇のひめーすごーい!」


「お嫁さん! フェリス様のお嫁しゃん!」


「可愛い、レティシア姫!」


ぽん!  ぽん!  ぽん! と薔薇と桜の蕾が降って来てはじけて咲く。何処かでピアノとヴァイオリンが鳴り始める。綺麗な包み紙に巻かれた何かお菓子のようなものが降ってくる。


「リン、フェイ、ティ。魔力を抑えて。レティシア姫がびっくりしてるよ」


「こんにちは。歓迎ありがとう。初めまして」


うん。花にお菓子に音楽だから、たぶん歓迎!

毛虫とかじゃないし。

これはたぶん、自分で魔力が制御できない小さい子達を預かってるって印象かな……?


「は、初めまして」


「お、怒らないの? レティシア姫、やさしい、好き」


「ご、ごめんなさい。あのね、わーってなっちゃダメって教えて貰ったんだけど……嬉しくなると……」


それこそ五歳にもならないような小さい子達が恐縮している。


嫌な顔されるのを予想している瞳が、何処かの国の呪われた姫に似てる。


「うん。大丈夫。薔薇も桜もお菓子も、音楽も好き。私もね、この前、魔法失敗して、フェリス様に助けて貰ったの」


子供達を安心させたくて、レティシアは言った。


「わー。フェリス様優しいもんねー」


「お姫様、いつもフェリス様と一緒なの? いいね!」


「フェリス様、いつも、必ずできるようになる、僕にも出来たから、て言ってくれるもんねー」


うんうん、と三人は頷きあう。


「みんな、フェリス様のこと、好き?」


こんなところにも、レティシアの小さな推し仲間が!


「好き! 大好き!」


「フェリス様、僕達の親代わりなのー」


「いつか、魔力をせいぎょできゆ、みんなに怖がられない人になって、フェリス様の魔法使いになるのが夢なのー」


「すみません。フェリス様は御自身が誰よりも魔法を使えるから、専属魔法使いになるのは無理だよ、と教えてるのですが……」


「カイ先生は夢がない」


「不可能を可能にするのが魔法使いだよね」


「お姫様は花嫁様だから、ずっとフェリス様といられていいなー」


キラキラする瞳で、羨ましがられてしまった。

うちの推し、フェリス様、モテモテ!


「だ、大事にするね、みんなのフェリス様」


「わーい。僕達も、薔薇の姫、大事にするー」


「ばらのひめ、とっても可愛いね……」


「御結婚おめでとうー」


ぽぽぽぽん! と赤、白、ピンク、黄色、紫、色とりどりの薔薇の花がレティシアに降り注いできた。


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