第324話 サリアの災いを呼ぶ姫 21

「フェリス様! フェリス様!」


「お帰りなさいませ! お帰りなさいませ、フェリス様!」


「レティシア姫! レティシア姫! なんてお可愛いらしい!」


レティシアの心配をよそに、シュヴァリエは、自慢の領主の帰還と春に小さな花嫁を迎えた喜びに輝いていた。


サイファに乗りたいけどサイファ自身も病み上がりだしシュヴァリエに慣れてない。


それに、フェリス様が一緒でないと心配、と仰るので、フェリスの愛馬シルクに二人乗りしていた。


「フェリス様、凄い人気です……!」


どうやら災いの姫とバレてない、とほっとしつつ、婚約者殿の人気に吃驚して嬉しくなる。


推しがみんなに熱烈に愛されている! なんだか生きる気力が湧いてくる!


「ディアナ人はお祭りが大好きだからね」


「いえ、あの、そういう問題ではないと思うんです」


「そうかな? いつもね、みんな元気なんだよ」


たぶんフェリス様、人生ずっとこうだから、ちょっとこの熱量の激しさがわかってないのかな?


フェリス様ー、何処の王弟殿下も、こんなに人々に熱狂的に迎えられる訳ではないのですよー。


サリアなんてもっと儀礼的ですよー(残念)。


前世のアイドルのコンサート並である!


(雪も、突然、チケットが余ったから、と連れて行って頂いたことがあるのだ!)。


フェリスは慣れた様子で、かけられる声に軽く手を振っている。


一緒に、と促されて、レティシアも可愛く一緒に手を振ってみる。


手を振られて嬉しそうな人たちが可愛い。


レティシア自身も生まれながらのお姫様ではあるんだけど、婚約者殿はごく自然にとる動作が、本当に生粋の生まれながらの王子様だなあと想う。


「僕はあまり面白くもない男なんだけど」


「………」


相当面白いと思います、と思いながら、フェリスの腕の中で、フェリスの言葉に耳を傾ける。


あまり自分のことを語る方ではないので。


「そこの花売りの娘にも、パン屋の店主にも、薔薇農家の者にもみんな生活があって、その生活を少しは僕の手で守れてるかと思うと嬉しかった。僕には何も、守りたいようなものもなかったので」


「……」


この結婚が、豊かなディアナとサリアを結びつけるなら、それはいい、と思っていた。両親を失って何の気力もない抜け殻のようなレティシアが、サリアの誰かの幸せに役立てたらいいと。


「これからは僕にも、うちのレティシアを守っていく楽しみが出来た」


シュヴァリエの豊かさは、この美しい婚約者殿の孤独と共にあったのだろうか、と、薔薇の話と音楽と歌と、人々の賑わいに満ちた街を馬上から眺めながら、何とも言えない気分になる。


「私、うーんと手がかかりますから、フェリス様はこれから大変ですよー」


フェリスに笑って貰いたくて、レティシアはそう言った。


この貌で、やたら面倒見よすぎるお人好しとか、この人どうなってるんだろう、と想っちゃうけど。


(こういう貌の人は、普通、面倒みる方でなく、みられる方なのでは……?)


「ホント? それは凄く楽しみだな」


太陽の光を受けながらレティシアを見下ろして幸福そうに微笑んだフェリスに、悲鳴のような歓声が上がった。

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