第323話 サリアの災いを呼ぶ姫 20

「いまいちではありません! うちのフェリス様は、御顔よしお人柄良し、みんなに自慢したくなる私の推しです! 私にも、私以外にもモテモテです!」


叔母様のことはおいておいて、ここはぜひ主張しておこう、とレティシアは気合を入れる。


「そ、そう? 僕はレティシア以外にはモテなくていい。……不必要にモテて、思ったよりひどくなかったから、花嫁交換しようなんて言われたくない」


「……う。それはそうなのですが……」


うにゃん。そうなんだけど、とレティシアは項垂れる。


「変人の嫌われ者の王弟殿下でいいから、僕からレティシアをとりあげないで欲しい」


「嫌われてないです……王太后様がちょっとお気持ちを拗らせてるだけです……」


王宮で、レティシアを見下ろしてた王太后様の瞳が、ずっと心に残ってる。

レティシアの勘違いでなければ、あれは……。


「そもそも、うちの義母上に、イザベラ妃から文が来たそうだけど……」


「組み合わせが怖すぎますね」


「うん。義母上が、花嫁交換の話に乗らないでくれてよかった」


「マグダレーナ様は私に後ろ盾がないことがお気に入りだった筈なので……現王女のアドリアナでは喜ばれなかったのでしょうか?」


何が理由でも、叔母様と王太后様がタッグを組まないでいてくれて有難い……。


「それもだし。義母上はディアナの人だから、花嫁交換なんてレーヴェが怒りそうなこと、ディアナの民は嫌がることを知ってるだろうから……」


「竜王陛下が」


「ふざけてんのか、うちのレティシアは祝福に満ちてる、寝言なら寝て言え、て怒りそうでしょ、竜王陛下?」


「……はい」


フェリス様の、うちのレティシア、の言葉にくすぐったい気分になる。


「フェリスの花嫁はレティシアだた一人。交換なぞ、する訳ない、て」


「………」


りゅ、竜王陛下のお話してるだけなのに、何だか、赤くなっちゃった。


「レティシア? やっぱり顔が赤いかも? 外出やめて、今日は家に……」


「いえ! お祭り行きたいです! あ、でも、私、呪われた娘の噂が出てるなら、行かない方が……?」


お祭り楽しかったけど、うう、可愛い花嫁さん期間、短かったな……。

シュヴァリエの人達に歓迎されて凄く嬉しかったな。


短い幸せだったけど……。


「いや、義母上から神殿に内内に相談、て話だから、サリアの無能な占術師の嘘がディアナで広がったりはしてないよ。……たとえそんな話がディアナに広がっても、シュヴァリエの民はレティシアを守るよ。レティシアはシュヴァリエの薔薇の姫なんだから」


「私、昨日、シュヴァリエの方々に歓迎されて、とても嬉しくて……だから、シュヴァリエの領民さん達に、私のせいで嫌な思いをさせたくないです……。災いの薔薇の姫なんて申し訳ないので……」


不吉な娘だ、不幸を呼ぶ娘だ、呪いの娘だ、と言われてると、それがたとえ嫌がらせだとわかっていても、だんだん言われてるこちらも、そんな気になってきてしまう。


「僕のレティシアに、僕のシュヴァリエで、虚言など僕が許さないから、何も怖がらなくていいよ」


「フェリス様……」


父様でも母様でもない、レティシアの新たな守護者が、レティシアの額に優しいキスをした。




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