第299話 稀有な婚約者殿について
「レティシア様。すみれと菜の花と卵のサラダです」
「可愛い!」
ちょっと、ううう、となってた私の気を晴らすように、給仕の方が新しい皿に気を向けてくれる。
ちなみにね、この世界の十七歳の男の子は、みんなフェリス様みたいかっていうと、そんな訳ないの。我が婚約者様は、五歳から領地の改革されてるけど、そんな社畜の私が日々の癒しにとスマホで読んでた異世界転生コミックの主役みたいなことする人はそうそういない。
十代で政略結婚は、もとの世界と違ってたくさんあると思うけど、親任せの人が多々。一家の采配はお父様お母様で、若い御本人には、まだ実権なくてもおかしくないお歳だしね。
私たちの婚約も、王室の婚約だから、王室担当に任せきりでも全然大丈夫なんだけど、いまのは、王室からでなく、私の幸せを祈ってくれたサリアの人達に、フェリス様が私財で贈り物して下さるという話。
顔もいいのに性格もいいとは、これいかに……(顔のいい人に失礼)
フェリス様も転生者なんてことは? とも考えるけど、フェリス様の異質感は、たぶん竜王陛下譲りの血のなせるものなんだろうと(普通の人ではないけど、この世界の人な気がする)。
王太后様とフェリス様がうまくいってて、フェリス様が引き籠り希望の変わり者(?)じゃなかったら、とてもじゃないけど、レティシアの婚約相手になる人じゃないと想うの。
私としては、こんな訳の分からないことばかり言う不気味な娘はいらない! て怒り出さないこの上もない御相手なんだけど。
「こちらの花は食用ですのでお召し上がり下さいね」
「食べられるお花なんですね」
「はい」
「王都でもこちらでも、うちの料理を作る者達の、レティシアを迎えた喜びを日々感じるよね」
「やっと食事を楽しんで下さる方がいらした、ですよね」
フェリス様の感嘆に、レイの相槌。
「フェリス様も美味しそうに召し上がるのよ。あの、ちょっと、他の人より、表現が控えめなだけなの。いつもみんなが作ってくれるお料理に、ちゃんと喜んでらっしゃるの」
フェリス様はお貌が整いすぎてて、表情の微妙な違いが伝わりにくいんだけど、何だかいま喜んでるんだなーていう気配はあるのよ。
夜中に一人で机に向かいつつ、厨房から魔法でお夜食取り寄せてるあたり、可愛い魔法使いさんだと思うの。
「レティシア様、そのように厨房にお伝えしますね。朝から可愛らしい方に庇われて、うちの表現のうまくないご当主様も幸せ者ですね」
「……レティシアが幸せそうに食べてるのを見ると、食事が美味しく感じるので、僕も美味しそうに食べられるように努めたい。僕と食事してて、食べ物がまずく見えてはいけない」
「フェリス様とごはん食べるのはいつも楽しいです!」
なんだかフェリス様が恐縮してらっしゃるので、正直な気持ちを伝えながら、すみれの花をフォークでつつく。
美味しいのかなー? お花って?
「僕も、レティシアと食事するのは楽しいよ」
照れながら、お花を食べてるフェリス様、めちゃくちゃ可愛いー!
推せる!!
厨房の方、朝から可愛い絵をありがとう!
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