第298話 レティシア姫の婚姻支度について、シュヴァリエの領主の疑問

「レティシアの幸せを祈ってくれたサリアの民に、僕から何か贈ろう。少し、騒がせてしまったようだし。何がいいかな?」


「そうですねぇ、この季節ですから、シュヴァリエの桜の花びら入りのお酒などはいかがですか? 昨今、高値で取引されてるようですし」


「ああ、レティシアとの結婚のお祝いに可愛いかもね」


「え。あの。フェリス様、サリアへは、もう、フェリス様からたしか婚礼の御挨拶の贈り物、頂いてるはずですので……」


レティシアが、サリア王都を婚礼の旅で出立するときに、ディアナの王弟殿下から街へも贈り物が、と聞いた気がする。


そのときはぼんやりしていたので、レティシアの為にサリアの民にまで贈り物が届くなんて、きっと嬉しくない結婚だろうに、王弟殿下の婚礼担当の方が丁寧なのかしら、それともディアナが裕福な国でいらっしゃるから? と思っていた。


まさかフェリス様がこんな風に御自身で差配されてるとも思ってなかったので。


「うん。でもね、レーヴェに言わせると、王族の結婚て、民や街の祝祭であり、皆の稼ぎ時なんだって」


「はっ、竜王陛下」


竜王陛下のお話になると、フェリス様の声が、やんちゃな兄さんの話でもするみたいに可愛くなるから好きなの。兄というか、父というか、祖父というか、神様だけど。


「でもね……、先日来、サイファのことにしても、イザベラ王妃の御様子からしても、僕の大切なレティシアの婚礼が、きちんとサリアで祝祭として扱って頂けてるのかなと気がかりで……」


「いえ。あの。先王の娘の婚姻なので……あの! あの! 決して、ディアナ王弟のフェリス殿下に無礼な訳では……あ、その……!! 私が個人的に叔母様方に嫌われてるので、ちょっとぞんざいに……決して、決して、フェリス様に悪気は……!! 」


どうフォローしていいかわからなくて、もごもごしてしまう。

ううう。


私がサリア王家で適当に扱われてても、決してサリアはディアナの王弟殿下に悪気がある訳ではないとお伝えしないと……。


「うん。べつに僕に対してはどうでもいいんだけど、サリアの風習までは僕にはわからないけど、レティシア姫の婚姻は華やかだったね、楽しかったね、てサリアの人のいい思い出にしたいよね、と」


そこは、どうでもよくないです。

私のことはいいとしても、フェリス様に失礼がないようにしたいのー。


えーん。

たとえレティシアが実家で嫌われてなくても、ディアナとはだいぶ財力違うと思うけどー。


「左様でございますね。大切なレティシア様の御婚礼ですから。では、機嫌を損ねてはいけませんから、王宮側のフェリス様の婚礼担当者とも相談致しまして、桜の花びら入りのお酒や、いまでしたら薔薇の生花や、ディアナの名産など、さらに御贈りいたしますね。……レティシア様、何か希望のものがおありでしたら、お気軽にお申し付けくださいね」


「レイ、フェリス様のご負担にならないように……」


「お気になさらず、レティシア様。フェリス様のおかげで、シュヴァリエはこのところ成績が良すぎるので、中央に税として納めてしまうよりは、シュヴァリエとしてたくさん経費を使っておきたいのです」


「ディアナでは、僕の婚姻に、商人はみな今年の商いをかけてる、と言われてるから、レティシアは何も遠慮しないで。サリアの人にも喜んで貰おうね。……僕の大事なレティシアとの婚礼の御礼を、僕がするのはあたりまえのことだ」


「うー……。ありがとうございます」


それはね、フェリス様見てると、この方の婚姻で大きな商いが動くと言うのは、納得なんだけど、もと東京勤務の社畜的には。


レティシアの実家が、レティシアの婚姻に手を抜きがちだっただけで……。


ああ、婚儀の振る舞いでいろいろ振舞われて、サリアでも、いっぱい食べられる子とかいるといいなあ……。

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